Dear my girl

「2期、発表ありましたね!」

 大槻が眼鏡の位置をカチャッと直してにやりとする。律は「ねー、きたきた!」と両手を組んでぎゅっと握った。

「でも予告PV、なんか不穏なんだけど」

「そうそう、そうなんですよね」

 全国大会を前にチーム内に亀裂が入り、最悪のムードらしい。主人公がコートに一人残って黙々とシュート練習をしているさまは、予告だけでも涙を誘ったという。

 大槻はひとしきり律と盛り上がると、沙也子を見て口ごもった。

「どうしたの?」

「こんなのばかりで申し訳ないんですけど、谷口さんに話があって。その、黒川くんのことで」

「黒川くん?」

 あのとき立ち聞きしてしまったことを大槻にも謝ったと聞いている。沙也子は瞬いた。

「あれから、頻繁に声をかけてくるようになって、困ってるんです。陽キャって、陽キャってだけで怖いじゃないですか。心がざわつくっていうか」

「うーん……」

 確かに初期の印象は最悪だったけれど、誤解が解ければ存外いい人であった。それに大槻に対しては初めから悪意などはないはずである。

「大槻さんと友達になりたいのかな」

 彼女は心底嫌そうに顔をしかめた。

「いや、もう、からかわれてるとしか。百歩譲ってそうだとしても、住む世界が違うんですよ。できれば関わりたくない人種なんです。でも無視するとよけいに絡んでくるし……」

「もしかして、あいつ、大槻さんに惚れたんじゃない?」

 律がそう言うと、大槻は、すんと真顔を返した。

「絶対、ない、ですから」

 あまりにも虚無を感じさせる顔だったので、うっかり黒川に同情しかけた。

「分かった。今度さりげなく聞いてみるね」

「ありがとうございます。すみません」

 大槻はホッとしたように微笑み、自分のグループに帰っていった。そこで交代の笛が鳴り、沙也子も他の待機組とともにコートに入る。


 ボールがぽーんと穏やかにコートを行き来する。バレーボールガチ勢はいないらしく、遊びのように和やかにボールが回されていく。

 何回続くか記録更新とばかりにずっと続けていると、痺れを切らした教師に真面目にやれと怒られ、みんなで笑った。

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