Dear my girl

10.


 チャイムが鳴った途端、あちこちから、うめき声やらため息が漏れ出た。

 教師が「はい、筆記用具置いてー」と言ったことで、教室ががやがやと騒がしくなる。中間テスト最後の科目である古文が終わり、沙也子も、ふーっと息を吐き出した。
 未だかつて、ここまでやり遂げた感があっただろうか。

 特に英語と数学は過去最高に書き込むことができた。最終科目が得意の古文だったこともあり、踊りたくなるほどの達成感と解放感だった。

 一番後ろの生徒が順番に答案用紙を回収する。沙也子も答案を裏返して渡した。


 ホームルームが終わると、律が跳ねるようにやって来た。

「あー、やっと終わったね。お昼食べて帰らない?」

 テスト期間中は午前で終わるため、昼食は一孝と家で食べていた。けれどもこの最終日、予定があるのか、お昼はいらないと言われているので、特に用意していない。まさにちょうどよかった。自分を労う意味でも、外食したい気分だった。

「行く行く。なんか、がっつり食べたい感じ」

 沙也子がしみじみと言うと、律はおかしそうに笑った。


 がっつりいきたいけど甘いものも食べたい。どちらの欲求も叶えるべく、パンケーキ屋を選んだ。

 運ばれてきた3段重ねのパンケーキは、メニューの写真と違わずフルーツたっぷりで、デザートというよりがっつり食事のボリュームだった。見た目にも大満足である。

「沙也子、へろへろだったもんね。どうだった?」

 一口大に切り分けたパンケーキに、律がフォークを刺す。沙也子はまずいちごから口に入れた。

「ほんっと、もう、これ以上は脳が限界ですって感じだった。そのかいあって、あんなに手応えあったの初めて。全部涼元くんのおかげだよ」

 続いてパンケーキを食べてみると、溶けてしまうようなやわらかさだった。あまりに美味しくて、むしろこのためにテスト勉強を頑張ったのではと錯覚してしまう。

 逆に律にテストの出来を訊いてみると、彼女はまずまずだと答えた。その顔つきから自信が伝わってくる。小学生の時も成績がよかったので、きっと今でも学力を維持しているのだろう。

 しばらく欲求のままに食べ進める。たっぷりとパンケーキを堪能し、紅茶で一息ついた。
 そのタイミングで、律は意味ありげな視線を寄こすと、声をひそめた。

「ところで、その涼元だけどさ。本当になにもないの?」

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