Dear my girl
一瞬、同姓同名ではと思ったけれど、クラスまで書いてあるので、正真正銘自分だった。同じクラスに谷口沙也子は二人もいない。
「す、涼元くん、すごい! 涼元くんってすごい!」
思わず涙ぐんでいると、横から黒川蒼介が割り込んできた。
「ほんと、こいつの頭、どーなってんの。主要教科満点って」
沙也子は急いで確認した。主要教科全ての1位に一孝の名があり、横の数字は100。横長の模造紙の一番右側を見てみると、やはり1位は涼元一孝だった。
「わ~、さすが」
子供のころは神童と言われ、この学校でも噂は聞いていたので、驚きこそしないものの、沙也子は尊敬を込めて呟いた。
黒川は拍子抜けしたみたいに「え、軽っ」と笑った。
「今、すごいすごい言ってたよね」
「それは、わたしの勉強見てくれたから。こんな順位、生まれて初めてなんだけど。夢じゃないよね」
ほっぺたをぎゅっとつねっていると、黒川は一孝を見て、意味深ににやにやした。
「なるほどね、そりゃ満点も取るわ」
ざっと順位を見渡すと、大槻やよいは3位で、律は11位。黒川は存外成績がいいらしく19位だった。
「涼元くん、本当にありがと……」
感激冷めやらぬままに見つめると、一孝はちらっと横目で見やり、すぐに前を向いた。
「まだまだこれからなんだから、終わった気になるなよ」
「はい、先生」
ビシバシしごいてください。そんな気持ちを詰めまくって敬礼する。
スキップしたくなるくらい浮かれて教室に戻り、さっそく律に報告した。
「すごいじゃん! 100位に滑り込めればいい方って言ってたのに」
自分のことのように喜んでくれたので、面映ゆくなる。確かに大躍進なのだが、律の方がずっと上位なのだ。沙也子は照れ混じりに手櫛で前髪を整えた。
「律のほうがもっとすごいよ。涼元くんは1位だったし」
「ああ、20位くらいまではいつもほぼ変動がないから、目新しくもなくてさ」
なるほど、余裕というよりは、見たところでいつもと同じだと思ったらしい。沙也子だったら何度でも見に行きたいくらいで、スマホで写真まで撮った。
それにしても、ここまで成績を上げることができたのは、間違いなく一孝のおかげである。英語と数学がまったく足を引っ張らなかったとはいえ、これほど伸びるとは思わなかった。
先日購入したプレゼントが対価に見合っていないのではないかと心配になる。そんな沙也子を、律は笑い飛ばした。
「大丈夫だって。絶対、どんなものでも喜ぶから。おめでとうって言うだけでも感激すると思うよ」
「えー……」
喜ぶ……? 感激……?
とても想像できなくて、失礼だが脳内でモザイクがかかった。
「そうかなあ。これから受験勉強も見てくれるのに」
「そもそも、それがあいつの沙也子に対するお礼なんでしょ? まあ、どうしても気になるなら、来年はもっといいものあげるって言えば?」
「来年?」
沙也子は瞬きして律を見つめた。目から鱗が落ちた気持ちだった。
卒業するまでは涼元家にお世話になるのだし、プレゼントする機会は一度限りではない。そういえば、一孝の父は年末年始くらいは帰ってくるのだろうか。
(おじさんにも、なにか感謝を形にできたらいいな)
そのうち一孝に確認しておこうと思った。