Dear my girl
空き教室を使った展示室は、入口や壁にハロウィンの装飾が施され、可愛らしい雰囲気だった。
中は企画ごとにパーテーションで区切られていて、さまざまな作品が所狭しと飾られている。
風景写真や動物を被写体にしたもの。ハッとするような凄い写真もあれば、なぜこれを撮った……?と首をひねってしまうものもあったり、なかなか楽しかった。
大槻の作品は散歩中の猫を写したもので、角度でそう見えるのか、にやりと口角を上げている。味のある写真だ。
展示を眺める人は二、三人ほどだけど、奥のコーナーは賑わっていた。スタジオ風になっていて、ドラキュラの格好をした子供や血糊のついたナース服を着ている女子など、ハロウィンの仮装をした人たちが部員に写真を撮ってもらっている。
店番を交代した大槻は、沙也子にも記念撮影を勧めてきた。
「うーん、わたしはいいよ」
冗談だと思って断っても、彼女は引き下がらなかった。
「そう言わずに。これなんか、絶対似合うと思います。わたしの自信作なんですよ」
大槻が衣装を広げて見せてくる。とても凝った形の可愛らしいワンピースで、沙也子は感嘆の声を上げた。
「えー! これ、大槻さんが作ったの? すごい!」
心から尊敬を込めると、大槻はえへへと照れ笑いした。
「実はコスプレ衣装とか作るの好きなんです。谷口さん、ぜひ着てみてくれませんか」
そこまで言われると、ちょっとだけ着てみようかなという気持ちになる。学校全体がお祭り騒ぎなのだから、沙也子だって楽しんでみようと思った。
大槻が貸してくれた衣装は、小悪魔がテーマとのことだった。
簡易試着室で衣装を着てみると、思いのほかスカートの丈が短くて戸惑ったが、セットのニーハイブーツを履けばあまり気にならない……かもしれない。
ワインレッドのワンピースは黒のコルセットできゅっと締めるデザインで、背中と腰にはそれぞれ小さな黒い羽としっぽが付いている。
半袖はパフスリーブ。そして襟ぐりが少々深くて、デコルテは綺麗に見えるものの、気恥ずかしかった。赤い小さな角のカチューシャをつければ完成だ。
沙也子は鏡の前で、これはないな……と思った。
「谷口さん、どうですか?」
幕の外から大槻に声をかけられ、沙也子はこそこそと顔だけ覗かせた。
「衣装はすごく可愛いんだけど、わたしが着るとヤバいと思う……」
「えー、そうですか? 参考までに、着た感じ見せてもらってもいいですか」
顔だけ出したままあたりをうかがうと、ちょうど客は途切れているようだった。
衣装の出来も気になるだろうし、大槻だけならいいかと、沙也子は簡易更衣室からそっと出た。
「おおー! 可愛い、可愛いです! 思ったとおり、よく似合ってます!」
「ほ、ほんとに……?」
手を引かれて、撮影コーナーに連れて行かれる。
フォークに似たステッキを持たされ、気の利いたポーズも取れないまま、写真を撮ってもらった。
「衣装の貸し出しはニ時間なんですよ。よかったら、そのへんぶらついて来ませんか?」
大槻から朗らかに言われ、沙也子は急いで首を振った。
「いやいやいやいや。ごめんね、わたしはちょっと恥ずかしい。ていうか、いくらだっけ」
「いえ、わたしがお願いしたことですから、サービスです。それより、恥ずかしければこんな物もあるんですけど、どうでしょうか」
次に見せてくれたのは、ジャック・オー・ランタンの被り物だった。手のひらサイズの小さな布が、少し捻っただけで、ポンッと大きなカボチャの形になった。
「わっ、すごい。どうなってるの?」
「ポップアップテントみたいにバネを利用したんです。これ、マントもついてるので、これだったら歩いても恥ずかしくないですかね?」
沙也子は大槻の才能にうんと感心した。これだけいろいろ作成すれば、人に使ってもらいたいと思うのも当然かもしれなかった。
さっそくマントをつけてカボチャを被ってみると、体がすっぽり隠れ、どこからどう見ても沙也子だとは分からない。カボチャの口の部分が薄く、ちょうど目元にくるので、そこから見る感じだった。
「じゃあ、これでちょっと一回りしてくるね。あとで着心地報告するよ」