Dear my girl
(今日みたいな涼元くん、初めて見たな……)
いろいろな表情を見た。気を遣って「かわいい」とまで言ってくれた。プレゼントも(たぶん)喜んでくれた。
これもまた、文化祭マジックのなせる技なのだろうか。
嬉しさがじわじわと広がり、胸の奥があたたかくなっていく。
もう誤魔化しようもなく、彼は沙也子にとって特別な存在だった。
かといって、全てを話さず一孝に告白をすることなど、沙也子にはできない。告げることはできなくても、想うだけなら許されるはず……。
気持ちに浸りながら、ふと壁時計を見て、沙也子は急激にあわてた。
「もうすぐ休憩時間が終わっちゃう!」
念のため湿布を貼るように言われ、一孝に背中を向けてもらっている間にニーハイブーツを脱いだ。ひねった場所は、少しだけ熱を持ち始めていたけれど、歩けないほどではなかった。
しっかりマントを身につけたが、カボチャは今さらなのでやめておく。畳み方が分からなくて苦戦していると、一孝がやってくれた。彼も大槻の技術に感心したようだった。
一人で戻れると言ったのに、足が心配だったのか、一孝も写真部についてきた。
出迎えた大槻は、一孝もいたことに少し驚いていたが、沙也子と一孝を交互に見て、なぜか満足そうに微笑んだ。
「おかえりなさい。どうでした?」
「ありがとう、楽しかった! でもカボチャの被り物、バネの発想すごいと思うけど、もう少し視界が見やすいといいかもしれない」
忌憚なく使用感を報告すると、大槻はふむと腕を組んだ。
「やっぱりそうでしたか。自分で被ってみても、ちょっと思ってたんですが……。ありがとうございました」
「ううん、こっちこそ」
簡易試着室の幕の中に入り、クラスTシャツと制服のスカートに着替えていると、大槻と一孝の話し声が聞こえて来る。
「写真、買います? データごと渡しますけど」
「……いくら」
(気に入った写真があったのかな?)
沙也子も大槻が撮った猫の写真のポストカードを買おうと思った。