Dear my girl
それからは、登校班と一緒に登下校することにした。沙也子はとにかく迷子になりやすく、目が離せないのである。
その流れで、おやつをごちそうになることも少なくなかった。
沙也子と母親がまとう空気のあたたかさに、確かに癒されていた。
家政婦は基本的に放任であるが、誠司に報告義務がある。仕事で月の半分以上は海外にいる父とは週に一度スカイプで話していて、帰宅が遅い日があるのはなぜかと訊かれた。
隠すようなことではないので正直に話した。いい顔しないだろうなと思ったけれど、それは杞憂だった。
『そういうことは早く言いなさい。来週はそっちに帰るから、ご挨拶に行こう』
帰国した誠司と沙也子の家を訪ねると、ふたりとも誠司が持参した海外のお菓子に大喜びした。
「ご丁寧にありがとうございます。たいしたおやつでもないのに、かえって申し訳ありません」
「いえいえ、海外に行くことが多いもので、どうしても一孝に目をかけてやれなくて。一孝が沙也子ちゃんの話を嬉しそうにするので、ホッとしてるんですよ」
「そんな話、してない」
ただいつも状況を報告しているだけだ。適当なことを言われてカッとなって否定すれば、大人たちは楽しそうに笑った。
かなり複雑であったが、沙也子もにこにこしているので、まあいいかという気持ちになった。
女子は群れるので苦手だし、話が合う男子はいなくて、教師は調子のいい大人ばかり。それでも、
「おはよう、涼元くん!」
沙也子の笑顔が見たくて、学校が楽しみになっていた。
クラスの女子があることないことを言われて上履きをかくされたとき、沙也子は一緒になって探してやっていた。自分も沙也子に釣り合う人間になりたくて、いじめを見かければ首謀者たちを容赦なくなじった。
一孝は自分が一目置かれていることを自覚していたし、もしいじめの矛先が自分に向いたとしても別によかった。そんな命知らずはいなかったけれど。
ずっとこんな毎日が続くと思っていた。中学に上がったら気持ちを伝えようとも思っていた。
しかし、小学校卒業と同時に、沙也子は引っ越すことになった。
内心かなりショックだったのだが、ひどく悲しげな沙也子の様子に、逆に冷静になった。
手紙を書くと言ってくれたので、やり取りさえ続けられればそれでいい。必ずまた会えると信じているから。
それが、まさか一通も来ないなど、思いもよらなかった。