Dear my girl
「律は冬休みどうするの?」
中間テスト時に訪れたパンケーキ屋はドリンクも充実していて、あれからかなりの頻度でリピートしている。
律はカフェラテをくるくると混ぜながら答えた。
「んー、休み入ったら大掃除して、すぐおばあちゃんちかなあ。毎年のことだから今年もそうなると思うわ」
そういえば、何もないところだから適当に手伝いをして、あとはこっそりBL読むだけだから楽だと言っていた。今でもそうなのかと微笑ましくなる。
律がこちらを見て、少し迷った顔をした。聞き返そうとして躊躇したのだと分かり、沙也子は頬を緩めた。
「わたしはねー。涼元くんのおじさん、年末年始くらいは帰ってくるかなと思ったんだけど、ちょっと厳しいみたい。スカイプで話してて、逆に遊びに来ないか誘ってくれたけど、わたし、パスポート持ってないから。涼元くんも行かないって言ってたし、この分じゃ家で受験勉強づけになりそう」
一孝の父、誠司に会えないことは残念だったが、全く帰国しないわけではないらしいし、そのうち直接お礼を言える機会はあるはずだ。クリスマスプレゼントは、カードとともに発送することにする。
気を取り直した沙也子は、あまおう苺ラテをスプーンで掬った。ふわふわしていて、ほんのり甘酸っぱい苺パウダーがたまらない。
「じゃあ、ふたりで過ごすんだ?」
「そうなるのかな。てっきり涼元くんはおじさんのところに行くと思ってたんだけど」
小学生高学年あたりはそうだったので、きっと中学以降も父のもとに行っていたのではないかと思う。彼の英語は沙也子が聞いてもネイティブ的で、英文を教えてくれる時も、すらすらと滑らかに書きつけていた。
気が付けば、律が意味ありげに見つめていて、沙也子はたじろいだ。
「な、なに?」
「ううん。実はクリスマスとかお正月とか、沙也子はどうするんだろうって思ってたから。涼元がいるんじゃよかった」
「もしかして、気をつかわせたかも」
その可能性を今まで考えていなくて、沙也子の心が重くなる。律はおかしそうに笑った。
「そうだとしても、あいつは自分のしたいことしかしないでしょ」
「そうかな……」
と、考えてみて、確かに優しいけれど、やりたくないことまでやるような人ではないと思った。小学生の時も父の元に行きたくないと言っていたし、沙也子のことはいい口実だったかもしれない。
クリスマスにはご馳走を作りたいと思っていたので、沙也子にとっても嬉しいことだった。どういう意図で残ってくれたにしろ、精いっぱいもてなしたい。当日いるかどうかはまだ確認できていないけれど、冷蔵庫に入れておけば食べてくれるはず。
いつも母や祖母とでは食べきれないので、毎年わりとささやかなクリスマスだった。元気でやってるよと伝える意味でも、今年は思う存分食べたいものを用意するつもりだ。
「そうだったら、いいな」
沙也子が微笑むと、律も穏やかな笑みを浮かべた。
「あー、でも、そっかあ。律がいないんじゃ、どうしようかな」
「なにが?」
沙也子は鞄からチケットを取り出した。
「これ、商店街の福引で当たったの。水族館のチケットなんだけど、日にちがクリスマス限定で。明日、誰かにあげようかな。欲しい人いなかったら、ひとりで行ってもいいし」
律があわててカップをテーブルに置いた。口元にカフェラテの泡がついていることにも気づかず、焦ったように言う。
「それこそ、やつを誘いなよ」
やつというのは一孝のことだろう。沙也子はあいまいに首をひねった。
「でも、こういうの苦手そうじゃない? もしかしたら、クリスマス空いてないかもしれないしさ」
「訊くだけ訊いてみなよ。沙也子、涼元に感謝してるって言ってたじゃん。もしあいつが行きたいって言ったらお礼になると思うよ」
「そっか……」
沙也子はチケットを見つめた。誕生日早々寝込んだ彼に、幸運のおすそ分けにはいいかもしれない。
(興味ないって言われたら、ひとりで行けばいいか)