Dear my girl
夕食時に帰ってきた一孝は、開口一番訊いてきた。
「クリスマスがなんだって?」
沙也子は味噌汁をお椀に注ぎながら、クリスマスの料理計画を説明した。
「食べてみたい、作ってみたいお料理がいっぱいあったんだけど、わたしもおばあちゃんも食べきれないから控えてたんだ。涼元くんなら、たくさん食べてくれるかなって。えと……予定があるなら仕方ないんだけど。冷蔵庫に入れておいたら食べてくれる?」
「ない。予定なんかない。バイトもない」
勢いよく即答され、沙也子は少々面食らった。
「えっ、あ、そうなんだ。それなら……よろしくお願いします」
「谷口の料理は美味いから、楽しみにしてる」
心なしか嬉しそうに言われて、胸がとくとくと高鳴ったのが自分でも分かった。
最近さらりと誉めてくれることがあり、沙也子は動揺してしまう。憎まれ口を叩かれる方が安心するなんて、自分はおかしいのだろうか。
嬉しいのに気恥ずかしくて。食べる要員とはいえクリスマスに誘うなんて、特別だと言っているようなものではないかと、今さら気づいた。
(でも、幼馴染だし。こうして一緒にごはん食べたりしてるんだもん、普通だよね……?)
問題は、水族館のチケットの方な気がしてきた。よく考えてみたら、これではまるでデートみたいだ。
考えながらコロッケを口に運び、サクッといい音が鳴る。じゃがいもと挽肉がちょうどいい塩梅だった。なかなかよくできたと嬉しくなる。
料理を始めた頃は、爆発したり歪になったりと大変だった。その度に祖母がマッシュにしたり餡かけにしたりとリメイクしてくれた。
いくら失敗してもいい、どうにでもなるのだと。
(断られたって、どうにでもなる)
沙也子は一孝をちらっと見た。
「あのね、この間商店街の福引で、水族館のチケットが当たったの。クリスマス二日間限定チケットなんだけど、律は都合悪くて。だから、その、」
軽い感じで言いたいのに、妙に緊張して舌がもつれた。
一孝が箸を止めて聞き入っている。ごくっと飲み込む音がした。
「一緒に行かない? あ、でも、もし涼元くんが気が進まなかったら、誰かにあげるかひとりで行こうと思ってるから気にしないで」
「なに言っ、進まないわけねえだろ。なにこれ、誕生日ボーナス続いてる?」
「え?」
「こっちのこと」
沙也子は、はあと頷いた。彼は時々よく分からないことを言うのだった。