Dear my girl

 一孝はお茶を一息に飲んでから言った。

「あとでチケットかして。場所調べとく」

 またしても気を遣わせたのではと思ったけれど、クリスマス料理のことを告げた時と同じように嬉しそうだった。
 沙也子は口元を綻ばせ、じわじわと頬を赤らめた。

「嬉しい。ありがとう」

 そんな沙也子を一孝は見つめ、席を立った。

「どうしたの?」

「食事中に悪い。ちょっと……心を整えてくる」

 沙也子はまた、はあと頷いた。今日の彼はなんだか忙しない。

 でも、

(クリスマスに、涼元くんと水族館……)

 噛みしめるように心の内で呟いた。実感が遅れてやってきて、あたたかい気持ちが胸の中で広がっていく。

(嬉しい)




 時を置かず戻ってきた一孝は、先ほどと変わらないいつもの彼だった。いったいなんだったのか、さっぱり分からない。

 また食事を進めながら、沙也子は取ってきておいたチケットを一孝に渡した。

 24日は混みそうなことと、夜に向けて料理の準備をしたいことから、25日に行くことに決めた。

 夕食後も、彼は手持ちのタブレットで水族館を調べてくれ、見どころを教えてくれた。定番のイルカショーやペンギンの巨大水槽など、画像を見ているだけでもわくわくしてくる。

 ソファに並んで覗き込んでいて、ふと顔を上げると目が合った。たった今、楽しく話していたはずなのに、沙也子は急に言葉が出なくなった。

 一孝はふいっと画面に目を戻すと、

「珊瑚は植物じゃなくて動物だって知ってたか」

 謎のうんちくが始まった。


 冬休みはきっと、夏より一緒にいる時間が長くなる。
 沙也子の気持ちは絶対にバレてはいけない。

(男の人が怖いとか言っておきながら、好きなんて……)

 そもそも、自分では無理なのだから。

 知られたら……困らせる。いろいろ終わる。ここにいることもできなくなる。

 沙也子は心にしっかり鍵をかけようと思った。
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