Dear my girl

17.


 何事もなく冬休みを迎え、12月24日。
 今日は朝から曇天で、だからこそ、街を彩るオーナメントがいっそう輝いて見えた。
 商店街では明るい歌があちこちから聞こえ、街全体がきらきらした光に包まれているようだった。気持ちまでもが浮き立ってくる。

 昼食を終えた沙也子は、白い息を吐きながらスーパーへ向かっていた。
 頭の中で、ジングルベルが木霊する。

 
 クリスマスツリーもすでに準備万全。沙也子が毎年使っていたものを、リビングに飾らせてもらった。
 子供の頃は母の深雪と飾り、一孝が手伝ってくれたこともあった。中学の時は祖母と飾った。
 そして今回、一孝は沙也子の浮かれっぷりに呆れつつも、結局は一緒に飾りつけてくれた。
 子供の頃もこんな顔をしていたなあと思い出し、沙也子の顔が綻ぶ。

 クリスマスの料理計画は、あれからウキウキと頭を悩ませ、ノートにいろいろ書きつけた。さすがにこれを全部作るのは無理があるだろうと、そこから削る作業がまた大変だった。


 スーパーに着くと、まずは野菜売り場に向かった。
 色鮮やかな赤いラディッシュに目を奪われ、迷わず手に取った。あとでクリームチーズを忘れないようにと心にとめつつ、サニーレタスとサラダ菜もカゴに入れる。それと、ピーマンとパプリカ。グラタンのためのブロッコリーとたまねぎも。
 ローストチキンでもオーブンを使うので、時間配分に気をつけなければ。

 パエリアに入れるアサリもカゴに入れ、次は骨つき鶏もも肉と牛肉ブロックを購入した。一孝の父から食費奮発の許可はもらっているので、遠慮なく使わせてもらうことにする。プレゼントは無事に届いたそうで、とても喜んでくれた。

(涼元くんにも、何か買うべきだったかな……)

 先月誕生日プレゼントをあげたので、今回は何も用意していない。クリスマスとはいえ、あまりにも立て続けに渡すと、嫌がられるのではないかと思ってしまった。

(子供の頃は、もっと気軽に渡せたのにな)

 シャーペンとか消しゴムとか、たわいないものばかりだったけれど。
 逆に彼からもらうのは、缶入りクッキーやキャンディーなどお菓子が多かった。食べ終わった後も残しておきたくなるような可愛い缶で、実は今でも持っていたりする。

 あらたまってクリスマスプレゼントを渡すことはできないけれど、その分お料理に力を入れようと思う。
 隠し味は……などと思い浮かび、沙也子は赤面して頭をぶんぶん振った。だいぶ浮かれている。

 お約束で商品の場所を何度か訊かれ、ようやくレジへ向かえば、ものすごい長蛇の列で驚いた。
 意外と時間を食いそうだ。腕時計を見ながらそわそわしてしまう。
 けれども、ふと気がついた。みんな同じだ。どのカゴにも、たくさんの幸せが詰まっている。

(少しでも、喜んでくれるといいな)


 家に帰った沙也子は、さっそく準備に取りかかるべく、リビングのドアをノックした。
 返事があったので中に入ると、一孝は沙也子の荷物を見て、ムッとしたようだった。

「どうしたの?」

「買い物行くなら、声かけろよ。俺だって荷物持ちぐらいできる」
 
 沙也子は、なあんだと肩をすくめた。相変わらず機嫌のスイッチがよく分からない人だ。
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