Dear my girl

 オーブンでローストチキンを焼いている間に、フライパンでパエリアを作った。最後にアサリを乗せ、蓋をしてさらに5分。オーブンが鳴ったので、チキンを皿に移し、次はグラタンをセットした。
 フライパンを覗き込むと、アサリの殻が開いていたので蓋を取る。ふわっと魚介のいい香りが漂った。

(はぁ……いい匂い……)

 パセリを散らしたところで、グラタンも焼きあがったようだ。

 ローストビーフも切り分け、全ての料理をテーブルに並べると、なかなか豪勢なクリスマスディナーが完成した。達成感でいっぱいだった。

「涼元くん、できたよ。おまたせ」

 一孝はテーブルを見ると、素直に驚いた。

「すげ……」

 スマホで写真を撮っていて、沙也子の顔が熱くなる。確かに全力で頑張ったものの、そこまでしてくれると、なんだか こそばゆかった。


 仏膳用に少しずつ取り分け、母と祖母に供える。それからふたりで線香を上げた。

「よし、じゃあ食べよ」

 ノンアルコールのシャンパンを買っていたので、カチンと乾杯する。
 さっそくローストビーフに手をつけた一孝は「美味い」と言った。

「……酒が飲みたくなるな」

「飲んだことあるの?」

 沙也子が目を丸くすると、一孝はしれっと目をそらした。

「あるわけないだろ」

 ……あやしい。沙也子はじとっと睨んでしまう。

 中学の時はグレた(?)こともあるようだし、父の元へ海外に行った時なども飲酒する機会があったのではないだろうか。

「ふうん。まあ、いいけど。涼元くんは飲んだら強そうだね」

 お酒に酔ってへべれけになるところなど想像できない。顔色も変えずに飲み続けそうなイメージだ。

「そういうお前は弱そう」

 当然のように言われて少々ムッとしたものの、沙也子とてそう思っているので、現実を受け止めた。

「うーん、そうだと思う。お母さん、まったく飲めなかったみたいだし。楽しみなような、怖いような」

 沙也子がいい色に焦げ目のついたグラタンにフォークを差し込んでいると、一孝がカタンとグラスを置いた。

「最初に酒飲む時は、俺以外のやつと絶対に飲むなよ」

 ひどく真剣に見つめてくるので、沙也子はきょとんとした。

「えー、でも、律と一緒に飲もうって約束してるし」

「……一緒でいいから」

 なんだろう。最初のお酒は分かち合いたいとか?
 そもそも3年も先の話なので、いつまで有効か分からない。それでも、もし最初のお酒を一緒に飲めたら、楽しいだろうなと思った。

「分かった。聞いておくね」

 沙也子が微笑むと、一孝はわずかに頷いた。
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