Dear my girl

「わたしから見れば、涼元くんだって集中力すごいよ。それだけ優秀なのは、もちろん素質もあると思うけど、努力の結果でもあるよね」

 一孝は自分の現状にあぐらをかかず、常に難しそうな本を読んでいる。かといって勉強ばかりしているわけではなく、今は友達と遊んだりもしているようだし、バイトもしている。メリハリがあるのだった。
 すぐに集中力が途切れがちな沙也子は、一点集中がどれだけ難しいことか知っている。ひとりで勉強していた頃など、テスト前日に急に部屋が気になり、ずっと掃除をしてしまったことがあった。

 一孝は沙也子を見下ろしたまま黙り込んだ。

 深く見つめられて、沙也子は戸惑った。
 どうかしたのかと呼びかけようとしたとき、彼はまた水槽に目を戻した。

「邪念の方はまだまだだけどな」

「涼元くんに邪念なんてあるの?」

「ありまくりだっつの」

「へえー」

 彼ほどの人でもそんなことがあるんだなあと、沙也子は呑気に思った。



それから、ペンギンやゴマアザラシなどの愛らしい仕草をたっぷりと楽しんだ。

(イルカショーって何時からだっけ。始まる前にトイレに行っておこうかな)

「涼元くん、ちょっとお手洗いに行ってくるね」

 彼はトイレの案内板に目をやり、男子と女子が場内で対極に離れているのを見て取ると、

「あー……、分かった。この辺にいる」

 もしかしたら、迷子の心配をしたのかもしれない。場所が一緒だったら、前で待ってようと思ったとか? ……あり得る気がした。

「迷子になったりしないから大丈夫。すぐ戻るね」

(もしかして、涼元くんにとって、わたしは小学生から成長してないように見えてたりして)

 そう思うと、かなり複雑なのだった。
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