Dear my girl
ショーが始まると、軽快な音楽とともに、イルカたちが水中からジャンプして登場した。
5頭同時にジャンプしたり、輪っかを潜り抜けたり、飼育員の投げるボールを口で打ち返したり。しなやかで力強い跳躍力。あんなに愛らしいのに大迫力で、沙也子はすっかり夢中になって楽しんでいた。
「すっごい! 今の見た?」
回転しながら飛び出したイルカを指さしながら横を向くと、すでに彼は自分を見ていてドキッとした。
一孝はイルカに目線を戻し、感心したように言った。
「すげぇ筋力」
「そこ? でも確かに。だからあんなに高く飛べるのかな」
「まあ、身体能力の高さとスピードだろうな」
沙也子は、なるほどと頷いた。そういえば、社会見学の時に飼育係が言っていたことを思い出す。個体の大きさは関係なく、泳ぐ速さでジャンプ力が決まるのだと。
イルカは好奇心が強いものの飽きやすいので、訓練にも工夫が必要なのだと教えてくれた。
そんな話をしているうちに、今度はアシカが登場した。
くりくりおめめに、ちょこんとした尻尾。ずんぐりむっくりのフォルム。可愛い仕草と飼育員とのやりとりが微笑ましくて、気がつけばあっという間の20分間だった。
イルカとアシカを堪能した後は、最後にクラゲエリアをまわった。
他のエリアに比べてさらに薄暗く、雰囲気ががらりと違う。そこそこ人はいるけれど、たいていはカップルだった。
一孝の袖をつまんで歩く自分たちもカップルに見えるのかと思うと、妙に気まずい気持ちになる。
しかし、みんなふたりの世界に浸っていて、周囲を気にする人は誰もいない。沙也子は開き直ることにした。
いろいろな種類のクラゲを眺めながら進んでいくと、巨大な水槽が現れた。
薄っすらと青く光る水の中を、たくさんのクラゲがたゆたっている。まるで自分までもが暗い海の中にいるようで、とても幻想的な空間だった。
ふわふわと独自のリズムで水中を漂うクラゲは、見ているだけで癒される。時間を忘れていつまででも見ていられる気がする。
ふとガラスに映った自分たちに気づいた。
そして、気づかなかったふりをして、またクラゲを眺めた。
(やっぱり……わたしのこと見てる……?)