Dear my girl
自分の中で相当気まずくなると思っていた冬休みだが、そんなことはなかった。
一孝は毎度のことながら日中はバイトに行き、時々は黒川たちと遊びに行っているらしいし、夜は沙也子の勉強を見てくれる。
むしろスパルタに拍車がかかっているような気さえする。あれはクリスマスが見せた夢だったのではと思うほどだ。
沙也子は頭を抱えて机にぶつけたくなった。
考えればそうだったのかもしれない。クリスマスの二日間は、ふたりともどこか浮かれていた。これが通常運転なのだ。
もしも一孝から告白をされたらどうしよう、などとおこがましいことまで悩んでいた自分が恥ずかしい。
このまま、なるべく迷惑をかけず、頼らないように気をつけていれば、きっと何も変わらず過ぎていく。
沙也子は不自然にならないよう気をつけながら、当初の距離感に戻そうと思った。
とはいえ、やはり行事ごとは話が別である。
協力しながら計画的に大掃除をすませ、大晦日には、年が明ける前にお蕎麦を一緒に食べた。
一孝には海老天とかき揚げ、沙也子はほうれん草と月見のみにした。夕食もしっかり食べたので控えたのだ。
今年もよろしくと言い合い(主に沙也子が)、翌朝には購入しておいた御節を用意して、沙也子はお雑煮を作った。
その流れで、初詣にも一緒に行くことになった。
普段は閑散としている近所の神社は、たくさんの人で溢れていた。またコートを掴んでいるように言われたけれど、沙也子は胸を張って辞退した。
「ありがとう。でも大丈夫、もう以前のわたしじゃないから。もしはぐれたとしても、ここからなら余裕で帰れるよ」
親指を立てて見せると、一孝は呆れた顔をした。
「そう言っておいて、迷子になんだよな、谷口は」
そうぼやきつつも、沙也子の決意が固いと見て取ると、一孝は口をつぐんだ。
そうしているうちに本堂にたどり着き、参拝の順番がやってくる。沙也子は丁寧に手のひらを合わせて、しっとりと目を閉じた。
(どうか、お母さんとおばあちゃんが心配していませんように。勉強めちゃめちゃ頑張るので、このまま成績をキープできますように。それから……)
ぎゅっと瞼に力を込める。
自分はただ愚直に日々のことを精一杯こなせればそれでいい。
(涼元くんにとって、いい年になりますように)
そっと目を開けて横を見ると、一孝はまだ手を合わせていた。
祈る、というよりは、あらためて決意するような真剣な横顔だった。