Dear my girl

 一孝は目を開けると、後ろの参拝客に場所を譲るべく、沙也子の腕を支えて脇にそれた。
 
「ずいぶん、熱心だったね」

 気になってつい聞いてみると、一孝は沙也子を横目で見下ろした。

「神頼みしたわけじゃねえから」

 やはりそういうことだったのかと沙也子は納得した。お願い事をしたのではなく、新年の抱負でも誓ったのだろう。実力主義の一孝らしいことだった。


「あっ、おみくじも引きたい」

 授与所にて破魔矢を購入した沙也子は、おみくじの箱を発見した。
 一孝は料金の書かれた看板を見て、しらけたように言った。

「100円。まあ、これくらいなら、やってやってもいいか」

「なに、その上から目線」

「これだって商売だろ。原価考えると100円でも高えよ」

「もう、新年一発目の運試しじゃない。当たるも当たらないも自分次第っていうか」

 沙也子はお金を投入すると、目を閉じて己の手に神経を集中させた。透明な箱の中に手を突っ込んで引くスタイルで、少しかき混ぜた後、これだ!と思うものを掴んだ。
 一孝は一番上にあるものをあっさりと引いていた。

 ぺりぺりと紙を開けて中を確かめる。二人で顔を見合わせた。どちらも末吉だった。

「微妙……」

 沙也子も反応に困った。

「これって、下から二番目だっけ」

 それでも内容の方はお互い少し違っていた。
 沙也子の学業は「甘えを捨てよ」だし、彼の方は「万事思うがまま」であった。当たっていて怖くなる。

 内容を見比べていて、待人と縁談に目が行ってしまった。沙也子の方には「必ず来る」と書いてあり、一孝は「自分を信じること」だった。

 沙也子は自分のおみくじを見つめた。
 太字で末吉と書かれた横に、お告げのようなメッセージがある。


『今はつらくとも、残った枝に花が咲く。おそれないこと』


 恐れない、というのは、今の沙也子にはなかなか難しいことだった。
 それでも、花が咲くという文字にどことなく救われた。


 末吉という微妙な結果だったけれど、内容はそこそこ悪くなかったので、二人とも持ち帰ることにした。


 そしてつつがなく冬休みは終わり、新学期が始まって数日。

 沙也子の靴箱に、一通の封筒が入っていた。
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