Dear my girl
「なんか、ブレブレというか、ド下手ですね。スマホでこっそり隠し撮りしたのか」
「……だと思って、どこから撮ったんだろうって探してたの。そこにいる人がそうかもしれないって」
「な……っ、危ないじゃないですか! ひとりで!」
憤ったやよいとは対照的に、谷口はやけに冷静に見える。彼女は苦笑して、サイドの髪を耳にかけた。
「学校内のことだし、大丈夫だよ。ごめんね、なんか心配かけちゃって」
「校内だからって。こんな盗撮して、あまつさえ本人に見せつけるなんて、相当ヤバいやつですよ」
気味が悪い手紙攻撃に加えてこんな写真まで渡されたら、やよいなら爆発しそうだ。なぜこの子はこんなにもおっとりしているのか。
落ち着いてじっくり谷口を見てみれば、どことなく顔色が悪いことに気がついた。
もしかして、本当はとても怖いのに、恐怖を押し隠して見せているとしたら。
やよいは唇を噛んだ。やるせない気持ちで、もう一度写真を確認する。ふと、その一枚に目を留めた。
男子と一緒に帰っている後ろ姿だ。
男の方は半分に見切れている……というより、故意に切り取られているような。
やよいはここで、ようやくその人物の存在を思い出した。
「涼元くんには相談したんですか?」
「まさか。言ってない。大槻さんも、お願いだから誰にも言わないで。特に、涼元くんには絶対」
谷口が胸の前で両手を組んで頭を振る。あまりのことに、やよいはのけぞって驚いた。
「ええっ! どうしてですか! 涼元くんがこのことを知ったら絶対怒るし、必ずなんとかしてくれると思いますよ」
「これは、わたしの問題だし、迷惑かけたくないから」
「そんな……」
迷惑だなんて思うはずがない。
涼元一孝が谷口沙也子を好きなことは、一部では有名なことだった。本人が隠そうとしていないのかダダ漏れだからだ。
やよいから見ても「もうお前ら付き合っちゃえよ」案件なのに、何か事情があるのか、谷口が鈍感だからか、涼元がヘタレなだけなのか。二人に進展はみられない。
涼元に対して筋違いの妬みを抱いていたやよいを、谷口は優しく諭してくれた。
彼にしても、やよいが思っていたような嫌な人間ではなかった。むしろ、幼馴染をずっと想っているなんて、やよいのオタク心をくすぐった。こんなハイスペ男子でも恋に不器用なのだと思うと、微笑ましくすらあった。
つまり、やよいは谷口に恩を感じているし、二人にはうまくいってほしいと思っている。