Dear my girl
迷惑をかけたくないと言う谷口に、やよいはほとほと困り果てた。なぜそこまで頑ななのか。
「自分の知らないところで、谷口さんがそんなことになっていると涼元くんが知ったら……地獄絵図になりそうですが」
「地獄?」
谷口がきょとんとする。
いやいや自分で言っておいてなんだが、想像してゾッとした。
とはいえ、彼女が嫌がっているのに、やよいに勝手なことはできない。このまま放っておくことも、もちろんできない。こんな盗撮野郎をのさばらせておいたら谷口が危険だ。
やよいは慎重に、もう一度写真に目を通した。
撮影スポットはだいたい特定できた。実に素人のアングルで、慣れていないことがうかがえる。谷口の周囲を張っていれば、スマホを不審にかまえる人物など、やよいでも簡単に見つけられそうな気がした。
「どうしても、涼元くんに知られたくないんですよね?」
谷口は白い顔でこくりと頷いた。
「分かりました。言いません。その代わり、わたしに協力させてください」
「ええっ そんなのダメだよ! 大槻さんだってヤバいやつだって言ってたじゃない。そんなこと頼めない。わたしも犯人探しなんてやめるから……。放っておけばそのうち飽きるかもしれないし、お願いだから気にしないで」
今にも泣きそうな顔で、彼女はやよいの手をぎゅっと握った。そんな顔をさせるクズが、やよいはますます許せなかった。
「大丈夫です。谷口さんの名前は伏せて、信頼できる後輩男子に谷口さんの靴箱付近を見張っていてもらいます。一年の教室は昇降口に近いのでちょうどいいですよね。わたしは谷口さんをしばらく見守りますから」
「でも……」
「まかせてください。絶対に突き止めてみせます! 犯人を特定したら、あとはどうするかその時考えましょう」
やよいがささやかな胸をドンと叩いてみせると、谷口は申し訳なさそうに眉を下げた。
「……ごめんね。そんなこと」
「なに言ってるんですか! 話してくれてよかったです!」
やよいが裏庭に写真を撮りに来なかったら。谷口が話してくれなかったら。彼女がひとりで抱え込んでいたかと思うと、背筋が震えた。
(許さない……!)
卑劣な盗撮野郎などすぐに見つけて、証拠を突きつけて、とっちめてやる。