Dear my girl
……そう思っていたのに。
なんと1週間たっても犯人は見当たらなかった。
やよいが信頼をおく後輩の男子たちに事情を話し、撮影スポットや靴箱を見張ってもらった。やよいも谷口のことを遠くから見守り、怪しい人物がいないか警戒した。やれることはすべてやったつもりだ。
それなのに、また谷口の靴箱に写真の入った封筒が入れられていたと言う。それも2回も。
悔しいことに、やよいは一筋縄でいかないことを理解した。
相手は谷口の行動を把握しつつ待ち伏せ、やよいたちの目にとまることなく彼女の写真を狙える。谷口沙也子のストーカーなのだ。
靴箱にだって、いったいいつ入れているのか。
谷口が登校すると入っていたり、帰るときに入っていたりと時間はまちまちらしい。
後輩は授業中以外はずっと見張ってくれている。目撃情報がまったくないなど、信じられない。
涙が出そうだった。泣きたいのは、谷口のほうだというのに。
「おおつっきさーん。どした? 具合でも悪い?」
顔を上げると、チャラい美形がちかちかと視界に飛び込んできた。
黒川蒼介だった。彼はやよいの目元を見て、ぎょっとした。やよいは慌てて眼鏡を取って目を擦った。
「大丈夫……? マジで具合わりーの?」
「いえ、目にゴミが入っただけです。それより、授業中ですよね。なんなんですか」
数学の授業中だというのに、黒川はしゃがんでやよいの机に頬杖をついていた。
「先生、プリント忘れたっつって、職員室取りに行ったから。それよか、無理しないで保健室行ったほうがいいんじゃない? ずっとうつむいてたっしょ」
うつむいていたのは、不甲斐ない自分に怒りと、谷口の深刻さに焦りを感じていたからだ。
しかし、やよいは閃いた。保健室に行くふりをして、谷口の靴箱を見張ってみようか。もしかしたら犯人もこの手を使っているのかもしれない。
「そうですね。ちょっと保健室に行ってきます」
「一緒に行くよ」
「けっこうです」
強めに断ったつもりなのに、黒川は近くの男子に先生への言付けを頼んでついてきてしまった。