Dear my girl
21.
森崎律の意見を聞く。その黒川の提案に、やよいは「それはまずいです」と狼狽えた。
谷口からは、誰にも言わないでほしいと頼まれているし、その条件でやよいは首を突っ込んでいる。すでに黒川に話してしまったものの、これ以上約束を破るわけにはいかなかった。
そう説明すると、黒川はやよいの言葉をきっぱりと打ち消した。
「言ってる場合じゃない。大槻さんたちがそんなに見張ってても見つけられないなんて、かなりやべーよ。今はまだ写真で済んでるけど、この先どうなるか分かんないし。ただでさえ、谷口さん、男が怖……」
そこまで言いさし、彼は言葉を詰まらせた。
気を取り直すように深く息を吸い、静かにやよいを見つめてくる。
「どうしても涼元がダメってんなら、森崎さんに相談するしかないじゃん。あの子も同じ小学校らしいし、俺たちよか、よっぽど谷口さんと涼元のこと詳しいよ」
やよいはごくりと息を飲みこんだ。
黒川の言うことはまったくその通りであり、こうしてうかうかしてるうちにも、谷口にどんな危険が及ぶか分からないのだと、あらためて気づいた。
「……分かりました。森崎さんに、お昼休みに時間をもらえるよう、メールします。黒川くんも、いてくれますか?」
「もちろん」
真摯な表情で黒川が請け負ってくれたので、やよいはようやく肩の力を抜くことができた。
谷口には本当に申し訳ないけれど、相談できて心からよかったと思う。
やよいだけでは、もうどうすればいいのか分からなかった。緊張が緩み、じわりと涙が浮かんだ。
「ありがとうございます。黒川くん……意外と頼りになりますね」
潤んだ瞳で微笑みかければ、黒川はわずかに頬を染めて唇を尖らせた。
「意外とはよけいじゃね?」
その顔が本気で拗ねているみたいで、やよいは笑ってしまった。
やよいのメールを受け取った森崎律は、昼休みに視聴覚室に訪れた。
写真部で時々使わせてもらっている場所で、やよいは写真部の顧問から鍵を借りてきている。ここで話せば、誰にも聞かれることはない。
黒川と二人で待っていると、森崎は目を丸くした。
「大槻さんの相談って何かと思えば。なんで黒川までいるの? まさかの交際宣言?」
「あり得ませんから」
森崎の冗談をやよいは流し、黒川に説明したように、同じことを彼女に話した。焦ってところどころつっかえてしまったが、黒川が分かりやすく補足してくれた。
静かにじっと話を聞いてくれていた彼女は、真剣な顔で、当たり前のように告げた。
「すぐ涼元に言ったほうがいい」