Dear my girl
「で、でも……っ 谷口さんが、絶対言わないでほしいって」
「あいつなら、絶対に犯人を見つけられる。相手は得体の知れない沙也子のストーカーなんでしょ? 涼元なら、沙也子のストーカーの気持ちになれる。必ず行動が読めるはず」
「ええ?」
意味が分からず、やよいが首をひねっていると、黒川は森崎の言いたいことを理解したようだった。
「あ〜、確かになぁ。谷口さんのストーカーに対抗できるのは、谷口さんのストーカーの素質があるやつだけかも?」
「それに、涼元のやつ、子供の頃から沙也子に下心持つ男への察知能力、カンストしてるから」
「なにそれ、こわっ」
「あの、どういうことですか?」
やよいが瞬いているうちにも、森崎と黒川は話を進めていく。ものすごく頼もしいが、やよいは置いてけぼりだった。
森崎はこちらを向くと、やよいの手を握った。
「とにかく、大槻さんが相談してくれてよかった。今すぐ、涼元を呼び出そう。もし、なんですぐ言わないのか怒るようなことがあったら、私が責任持ってなだめる」
「俺も」
黒川がさっそくスマホを取り出し、電話をかけ始める。
やよいはふたりに負けじと、男気を見せるべく胸をそらせた。
「ありがとうございます。でも、涼元くんの怒りは、当然わたしが受け入れます」
黒川に呼ばれて視聴覚室にやって来た涼元一孝は、森崎の時と同じように目を丸くした。それから、訝しげに眉根を寄せる。
「なんのメンバーだよ。話ってなに」
三人で顔を見合わせ、涼元に向き直る。まず、森崎が口を開いた。
「沙也子のことよ」
「……谷口の?」
涼元の顔つきが変わった。
これで、手紙だの盗撮だのストーカーだの言ったらどうなるのか……。やよいは唇を震わせながら、小さく深呼吸した。
「実は、谷口さんの靴箱に、手紙や写真が入るようになったんです。それで、わたしが信頼してる写真部の後輩に協力してもらって犯人を捜してたんですけど……見つからなくて」
「……は? なに、なんのこと……手紙? 写真?」
彼のこの反応に、谷口が徹底してこの件を隠しているのだと分かった。本気で知られたくないのが、ひしひしと伝わってくる。
やよいは黒川と森崎と視線を合わせた。勝手なことをするのだから、こちらも本気で行かなければ。
「こ、これを見てください」
やよいは、谷口から預かっていた封筒を差し出した。涼元が来る前に、黒川と森崎にも見せてある。
受け取った涼元が、素早く中身を確認する。写真を見た瞬間、目を見開いた。
厳しい表情で写真をぱらぱらとめくり、次に手紙に目を通す。無言なのが、逆に威圧感がある。