Dear my girl
「谷口さん、ほ、本当は誰にも知られたくなかったんです。わたしが知ったのは、偶然でした。声をかけたら、谷口さんが写真を落としてしまって」
空気に耐えかねて、やよいはとつとつと最初の出来事を説明した。
「それで、写真を見たら素人なのが丸わかりだったので、わたしでも見つけられると思ったんです。でも……」
「大槻さんの様子がおかしいから、俺が声かけたってわけ。いくら谷口さんが内緒にしてほしいっつっても、そうも言ってらんないから、まずは森崎さんに相談した。そしたら、森崎さんは、すぐに涼元に言うべきだって」
黒川の補足を受けて、涼元は森崎に目をやった。彼女も真っすぐに見つめ返した。
固唾をのんで見守っていると、涼元はもう一度写真に目を落とし、つぶやいた。
「……谷口が、俺には絶対言うなって?」
最後の最後で自分に話が回ってきたことで、確信しているのだろう。やよいは口ごもりつつも、肯定するしかなかった。
「涼元くんに……迷惑をかけたくないって言っていました」
しばらく重い沈黙が続いた。
涼元はしばらく考え込むと、また写真に目を通し始めた。一枚一枚じっくり確認する。ぴりぴりした雰囲気が伝わってくる。
責めるなり問い詰めるなりしてくるならば、やよいも謝罪のしようがあるのだが。顔が整っていることもあり、表情が消えると何を考えているのかさっぱり読めない。
一枚だけ切り取られた写真を見て、彼は初めて目をすがめた。顔を上げて、三人を見渡す。
「話は分かった。大槻の言う一年が本当にずっと見張っていたとして、それでも見つけられないということは、相手は三年生の可能性が高い。三年は今、自由登校だ」
「あっ!」
やよいは思わず声を上げた。自由登校の三年生。完全に盲点だった。黒川と森崎も驚いている。
さらに涼元は続けた。
「一、二年が授業を受けている間に登校して、谷口の靴箱に封筒を入れる。そのあと管理棟の自習室にでも行けば、本校舎に立ち寄らずうろうろしてても不自然じゃない」
黒川が「なるほど……」と低く唸った。
やよいは、ぽかんと涼元を見つめた。
さすが優秀なだけあって、理解が早いし話がさくさく進んでいく。
それから涼元は、森崎に視線を向けた。
「あいつはすぐ一人でふらふらするから、なるべくそばにいてくれ」
「分かった」
彼女がしっかりと頷くのを確認し、彼は次にやよいを見た。
「このこと俺が知ったって、谷口には黙ってて」
「えっ、そ、それは、わたしとしても助かりますけど……。涼元くん、怒ってないんですか……?」
やよいは眼鏡を押し上げ、恐々と尋ねた。
谷口が知ったら悲しむだろうし、そう考えたらやよいも胃が痛かった。予想外な涼元の冷静さに、こちらの方が戸惑ってしまう。絶対キレると思っていたのに。
「……ムカついてるに決まってんだろ。俺自身に……、クソが」
そう静かに吐き捨てた涼元は、厳しい表情で拳を握りしめた。
(そうか……。涼元くん、さっきから自分に怒ってるんだ)
好きな子に頼ってもらえないのは悲しいことだ。
涼元を煩わせたくないという谷口の気持ちも分かるけれど、やよいは少々涼元に同情した。