Dear my girl

 涼元は、自分の方で犯人を見つけるから、一年には授業に集中するようにとのことだった。

 あらためて後輩に感謝を伝えたやよいは、彼らの授業を妨げていたことに気が回らなかったことを恥じた。


 その翌日。


 6限目の授業開始の本鈴が鳴り、教師が教室に入ってくる。そのほぼ同時ギリギリに涼元は戻って来た。今日一日、彼はずっとそんな感じだった。
 
 谷口の周辺を警戒しているのかなと思っていると、やよいのスマホが震えた。メールの受信だった。
 こっそり見てみると、差出人は涼元一孝。
 情報共有のため、みんなでアドレスを交換していたのだ。CCに黒川と森崎も入っている。


 件名は「みつけた」。

 画像が何枚か添付してある。


 一枚目を見て、やよいは不思議に思った。
 三年生の、元生徒会長の顔写真だった。

 品行方正で成績優秀。教師からの信頼も厚くて、確か成績優秀者特待生制度で国立大学の進学も決まっていたはずだ。
 性格もよく、あまりにもパーフェクトなので、出木杉くんと呼ばれているほどの男。

 その出木杉先輩がどうかしたのかと思いながら次の写真を見て――、喉の奥から「ぐふっ」と変な声が出た。
 教師からの視線を感じ、やよいは慌てて咳払いでごまかした。遠くから、黒川が咳きこむ声も聞こえた。

 教師がこちらを気にすることなく授業を始めたので、やよいはホッと息をついた。あらためて、机の下に隠したスマホを見下ろす。


 涼元が出木杉先輩を背後から撮った写真だ。

 先輩は友人と談笑しながら手にはスマホを持ち、いかにも会話中、何の気なしにいじっている雰囲気だ。だがしかし、その先には谷口沙也子がいた。
 それだけでなく。
 出木杉のスマホ画面に谷口らしき女子が写っているのが分かった。

 残りの画像も、似たような構図を涼元が収めた写真だった。
 パッと見、出木杉が盗撮しているようには見えず、スマホの画面に彼女が写っていなければ、とても信じられない。


 やよいは激しく驚いた。

 この予想以上の早さといい、驚異的な観察眼といい、ここまでとは……と震えてしまう。

 谷口沙也子を狙う男への嗅覚が半端ない。森崎が言っていたのは、こういうことだったのか。
 品行方正で元生徒会長の出木杉先輩がストーカーだなんて、やよいは疑うという発想自体がなかった。

 メールには続きがあり、「あとは靴箱に封筒を入れるところを押さえる」とのことだった。

 大事な大事な谷口沙也子を付け狙うストーカーを涼元がどうするのか気になるけれど、もはや彼に任せておけば、これ以上事態が悪化することはなさそうである。

 涼元の本気をとくと見せつけられたやよいは、谷口の無事を心の底から安堵すると同時に、またしてもオタク心を刺激されたのだった。
 
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