Dear my girl
「あの、それで、訊きたいことって……」
「いくつもバイトしてるから、勉強するには睡眠削るしかなくてさ。それでも死ぬ気で頑張って、周りにいい顔して教師にも取り入って……。僕は何やってんだろうって、急に息切れして疲れ果てた時、きみに出会った」
「わ、わたし……?」
「谷口さん、肉親を亡くしてるんだってね。それでも、スーパーでは関係ない他の客にまで親切にして、いつも学校でニコニコしてて。なんて優しい子なんだって思った。きみの存在が僕を元気づけてくれた。特待生試験を頑張れたのは、谷口さんのおかげなんだ」
ようやく沙也子は気づき始めていた。
全身から血の気が引いていく。
喉を震わせ、どうにか声を振り絞った。
「先輩……だったんですか? 手紙とか、写真……」
優しげに見つめられて、背筋がゾッとした。
「きみみたいな子が、僕の孤独を理解してくれるんだろうなあって思ったよ」
先輩は満足そうに微笑み、それから徐々に顔を歪めた。
「……あの涼元ってやつ、谷口さんのなに?」
「な、なにって……幼馴染ですけど」
いきなり一孝の名が出て、ドキッとする。
そんな沙也子を見て、先輩は目をすがめた。
「本当にそれだけ? 隣に住んでたり一緒に帰ったり。僕が見た限りは家に行き来はしてないようだけど、もしかして、あいつから迫られたり脅されたりしてない?」
「え、なんの、こと……」
「僕はね、本当はきみに気持ちを伝えるだけでよかったんだ。こんなにきみを想っている存在がいるよ、いつも見てたよって、卒業まで何度でも伝えるつもりだった」
そこまで言うと、先輩は頭を掻きむしった。
「……それを、あいつが……いきなり現れて、僕が谷口さんを撮ってる画像突きつけて、谷口さんが怖がってるから、迷惑してるからやめろってさ。やめないと、特待生が白紙になるどころか進学できないことも覚悟しろって脅してきたんだ。そういうやつなんだよ。谷口さんも騙されないで」
先輩が一気にまくしたててくる。
鬼気迫る目で見つめられ、沙也子は混乱した。
腕を掴まれたが、それどころではなかった。
――あいつって。あいつって誰。
広い背中が脳裏に浮かぶ。
(涼元くん……)
沙也子の目に涙がにじんだ。