Dear my girl
* * *
沙也子はスマホを取り出し、一孝に電話をかけた。
もしかしたら出てくれないかもしれない。そう思ったが、長いコールの後、彼は応答した。
「涼元くん? あの……、さっきは、本当にどうもありがとう。それで……話があるんだけど」
『……裏庭にいる』
すぐ行くと言い、沙也子は通話を切った。
大槻や黒川、律、一孝の気持ちがとても嬉しかった。
迷惑をかけたくないという沙也子の思いが、逆に律を、一孝を傷つけているなんて、少しも気がつかなかった。気づこうともしていなかった。
逆に考えてみて、例えばもしも律が危ない目にあっていて、迷惑をかけるからとそれを隠していたら……沙也子は怒ると思う。
大事だから、すごく大切だから――。
律の泣き顔を思い出し、沙也子の胸がぎゅっと痛む。
彼女に言われた言葉を、沙也子は体の奥底まで染み込むように理解することができた。
裏庭に行くと、一孝はベンチに座ってスマホを眺めていた。
こちらの気配に気づき、顔を上げる。
沙也子と目が合うと、気まずそうに、また視線を落とした。
一孝に本気で怒られたのは初めてだった。
いつも辛辣な物言いは彼のポーズで、沙也子を思いやってのことだと分かっているので、怖いと思ったことはない。
先程だって同じだ。
律が言ってくれたように、一孝は沙也子が大事だから怒ったのだ。
「心配かけてごめんね……」
そのあと、どう切り出すべきか迷っていると、一孝が静かに口を開いた。
「谷口が気にするなら、知らないうちに解決してやるつもりだった」
目の奥がじわっと熱くなる。
胸が詰まって、言葉が出てこなかった。
一孝は自嘲気味に苦笑した。
「証拠を突きつけて、ちょっと脅せば引き下がると思ったんだけど、甘かったな。結局こんなことになるし、かっこわる……」
ここまでしてもらって、もう気づかないふりをして誤魔化してはいられない。
沙也子は勇気を振り絞り、思い切って尋ねた。
「涼元くん……、わたしのこと、好きなの?」
一孝は顔を強ばらせた。
信じられないとばかりに、目を見開いて沙也子を見つめる。
ひどく動揺しているような、ショックを受けているような様子に、沙也子の心が痛んだ。
一孝は否定しない。
けれども、沙也子に告げるつもりもなかったのかもしれない。
言葉を失っている彼を見ると挫けそうになるが、一孝のために、はっきりさせなければいけないと思った。
沙也子は自分を奮い立たせた。