Dear my girl

「あの、こんなこと言ったら怒るだろうけど……それは勘違いだと思う」

 一孝が気分を害したように眉を寄せる。

 沙也子は怯みながらも、彼としっかり視線を合わせた。しどろもどろに、必死に言葉を紡ぐ。

「今、すごく距離が近いっていうか、隣に住んでて一緒にごはん食べたりして。それに、わたし、涼元くんに勉強教わったりして面倒かけてるし、今回だって心配かけちゃって……。涼元くん優しいから、絆されちゃってるのかも」

「……だから、盗撮のことも黙ってたって?」

 感情を押し殺したような瞳で見つめられ、沙也子は息をつめた。

「谷口の言う通り、この気持ちが勘違いだっていうなら、もう6歳の頃からずっとしてる」

「……え?」

「初めて会った時、迷子になったお前を家まで連れて行ってやったよな。あの日から、ずっと好きだった」

 沙也子は一瞬何を言われているのか分からなかった。
 
 子供の頃からの、さまざまな思い出がよみがえってくる。

 ずっと……? ずっとって?
 じゃあ、あの時も、あの時も、あの時も――?


(うそ……)


 そもそも一孝が好きになる要素が沙也子にあるとは思えない。だって、ずっと釣り合わないと言われ続けていたのだから。

 ただ呆然としていると、彼は静かにベンチから立ち上がった。

 深い眼差しで、沙也子を見下ろしてくる。


「好きだ」


 喉が、詰まる。

 絞られるように胸が熱く痛み、呼吸をするのも苦しくなった。

 涙腺が壊れたみたいに涙がはらはらと流れ落ちてくる。

 沙也子は流れる涙をそのままに、驚いた顔をしている一孝を睨んだ。


「何も知らないくせに……」


 感情が溢れて止まらない。

 誰よりも知られたくないと思っていたのに。
 何よりもそれを恐れていたのに。

 沙也子は一孝に事実を突きつけたくて、たまらなくなった。


 ――もういい!


 沙也子は泣き叫ぶ勢いで、胸のうちを吐き出した。

「引っ越した後、わたしに何があったか、全然知らないくせに! きっと知ったら、そんなこと言ってられないよ。好きなんて思うわけない!」

「全部知ってんだよ!」

 同じ勢いで言い返されて、沙也子の動きがぴたっと止まる。

(知って、る……?)

 沙也子は頭の中が真っ白になり、一孝を見つめることしかできなかった。
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