幽霊。〘透明になった日〙
「全クラスの課題曲だったけど、弾く人によって同じ曲でも印象が違かったよね」

「そうだね。表現力とか個性によって差は出ると思う」

「影山さんのピアノが1番綺麗だったな〜」
私の音をそう言って貰えたことに嬉しさを感じた。

「俺、憧れて音楽室のピアノで練習したけど全然出来なかった…ピアノって難しいね」

そんな顔をして笑うのかと、見惚れてしまう。
目を細めると涙袋ができて、釣り上げられた唇の間からは八重歯がちらりと見える。

その可愛らしい笑顔にほっこりした。

「今年の合唱祭も楽しみにしてる」

「えっと今年は…」

弾くかどうかは決まってない。同じクラスに弾ける人がいるのなら、私は弾かないつもりだった。

「俺、中村さんのピアノが好きなんだ」

弾くことを諦めてしまった事に罪悪感を感じ、指先を握りしめた。
きっと私は「誰かに」その言葉をずっともらいたかったのだと思う。
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