憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
***
俺の予想をくつがえして、アバズレがさっさと帰ったことに、すごく嬉しくなった。車の中で美羽姉と会話をかわしたあとだったからか、いつもより集中して対応することができたのは、良かったと思う。
窓からアバズレが帰ったのをしっかり確認後、マンション前に停められている黒のワンボックスカーに向かった。
「美羽姉、ちゃんと俺を見ていてくれたかな……」
呟きと同時に後部座席のドアをスライドさせたら、ちょっとだけ驚いた顔した愛しい人が、俺をまじまじと凝視する。
「学くん、お疲れ様!」
(――こうして美羽姉に声をかけられるたびに、冴木学に戻れるのはホッとする)
「ただいま。どうだった?」
「すごくよかったよ。見惚れちゃった……」
俺が座りやすいように、隣の座席に移動した美羽姉の頬は赤く染まった。それがかわいくて、食い入るようにじっと眺めてしまう。
「白鳥、ドア閉めろよ」
「あ、すみません!」
一ノ瀬さんの指摘で、慌ててドアをスライドさせて閉める。
「白鳥、今度あの女と対峙するときは、幼なじみちゃんも一緒なんだから、もっとしっかりしなきゃ駄目だ」
次の作戦としては、最終仕上げをするために、罠にハマったアバズレの背後に回って、現実を突きつけるところに入る。そのときは美羽姉も一緒にいる予定なので、今まで以上に気を引き締めなければならない。
(ファミレスに駆けつけるのが遅れた、あのときの二の舞にならないように、まずは俺がしっかりしなきゃいけないんだ)
「はい、俺が先行します!」
美羽姉を守り抜く気持ちを込めて告げたら、Tシャツの裾が引っ張られたのを感じた。隣を見ると、瞳を潤ませた美羽姉が目の下をほんのり染めたまま、黙って俺のTシャツを掴む寂しげな姿があって、思わず抱きしめたい衝動に駆られる。
「美羽姉、どうした?」
邪な感情を消そうとした反動で、声が掠れてしまった。
「あの、えっとね。学くんには私のせいで、無理してほしくなくて……」
「無理じゃない、大丈夫」
どんなことでも受け止める気持ちで、ハッキリと言い切った。
アバズレに同情されたときは、ただただ気持ち悪さを感じるだけだったのに、好きな人にこうして心配されるのは、なんて心地よく胸に感じることができるんだろう。
どんなに無理なことでも、やってのけようと頑張れてしまうのだから、美羽姉の存在は本当に偉大だと思う。
「幼なじみちゃん、元旦那さんの件はどうなってる?」
一ノ瀬さんの問いかけに、美羽姉は俺のTシャツを掴んだまま、前を向いて答える。
「村田先輩が上層部に書類の提出をしているので、了承を得られ次第、近日中に本人を呼び出すことを聞いてます」
「近日中か。こっちも今までの動画や音声データをまとめるために、ちょっと急ぎで作業をさせるか」
目を閉じながら、こめかみをとんとん人差し指で突っついて、考えに耽る一ノ瀬さんに訊ねてみる。
「急ぎで作業って、誰かに頼むんですか?」
一ノ瀬さん以外の人が今回のことを知っている事実に、驚きを隠せなかった。
「俺と白鳥の会話を盗み聞きしてたヤツが、動画編集を自ら申し出てくれた」
「盗み聞き……。あの部屋での会話を聞ける人って――」
「副編集長さ。悪趣味だよな、まったく」
呆れた声をあげた一ノ瀬さんに、美羽姉が慌てて会話に割り込む。
「すみません、その副編集長さんって、どうして今回のことにかかわろうとしているのでしょうか? 動画の編集とかその……金銭面が目的で進んでやっているとか」
心配そうな面持ちで一ノ瀬さんを見つめる美羽姉を安心させたくて、Tシャツを掴んでる手を外し、両手で包み込んであげた。
「学くん?」
「美羽姉、副編集長はお金にがめつい人じゃないんだ。そうですよね?」
「白鳥の言う通りと言いたいところだが、アイツは金にがめつい男だ」
俺の予想をくつがえして、アバズレがさっさと帰ったことに、すごく嬉しくなった。車の中で美羽姉と会話をかわしたあとだったからか、いつもより集中して対応することができたのは、良かったと思う。
窓からアバズレが帰ったのをしっかり確認後、マンション前に停められている黒のワンボックスカーに向かった。
「美羽姉、ちゃんと俺を見ていてくれたかな……」
呟きと同時に後部座席のドアをスライドさせたら、ちょっとだけ驚いた顔した愛しい人が、俺をまじまじと凝視する。
「学くん、お疲れ様!」
(――こうして美羽姉に声をかけられるたびに、冴木学に戻れるのはホッとする)
「ただいま。どうだった?」
「すごくよかったよ。見惚れちゃった……」
俺が座りやすいように、隣の座席に移動した美羽姉の頬は赤く染まった。それがかわいくて、食い入るようにじっと眺めてしまう。
「白鳥、ドア閉めろよ」
「あ、すみません!」
一ノ瀬さんの指摘で、慌ててドアをスライドさせて閉める。
「白鳥、今度あの女と対峙するときは、幼なじみちゃんも一緒なんだから、もっとしっかりしなきゃ駄目だ」
次の作戦としては、最終仕上げをするために、罠にハマったアバズレの背後に回って、現実を突きつけるところに入る。そのときは美羽姉も一緒にいる予定なので、今まで以上に気を引き締めなければならない。
(ファミレスに駆けつけるのが遅れた、あのときの二の舞にならないように、まずは俺がしっかりしなきゃいけないんだ)
「はい、俺が先行します!」
美羽姉を守り抜く気持ちを込めて告げたら、Tシャツの裾が引っ張られたのを感じた。隣を見ると、瞳を潤ませた美羽姉が目の下をほんのり染めたまま、黙って俺のTシャツを掴む寂しげな姿があって、思わず抱きしめたい衝動に駆られる。
「美羽姉、どうした?」
邪な感情を消そうとした反動で、声が掠れてしまった。
「あの、えっとね。学くんには私のせいで、無理してほしくなくて……」
「無理じゃない、大丈夫」
どんなことでも受け止める気持ちで、ハッキリと言い切った。
アバズレに同情されたときは、ただただ気持ち悪さを感じるだけだったのに、好きな人にこうして心配されるのは、なんて心地よく胸に感じることができるんだろう。
どんなに無理なことでも、やってのけようと頑張れてしまうのだから、美羽姉の存在は本当に偉大だと思う。
「幼なじみちゃん、元旦那さんの件はどうなってる?」
一ノ瀬さんの問いかけに、美羽姉は俺のTシャツを掴んだまま、前を向いて答える。
「村田先輩が上層部に書類の提出をしているので、了承を得られ次第、近日中に本人を呼び出すことを聞いてます」
「近日中か。こっちも今までの動画や音声データをまとめるために、ちょっと急ぎで作業をさせるか」
目を閉じながら、こめかみをとんとん人差し指で突っついて、考えに耽る一ノ瀬さんに訊ねてみる。
「急ぎで作業って、誰かに頼むんですか?」
一ノ瀬さん以外の人が今回のことを知っている事実に、驚きを隠せなかった。
「俺と白鳥の会話を盗み聞きしてたヤツが、動画編集を自ら申し出てくれた」
「盗み聞き……。あの部屋での会話を聞ける人って――」
「副編集長さ。悪趣味だよな、まったく」
呆れた声をあげた一ノ瀬さんに、美羽姉が慌てて会話に割り込む。
「すみません、その副編集長さんって、どうして今回のことにかかわろうとしているのでしょうか? 動画の編集とかその……金銭面が目的で進んでやっているとか」
心配そうな面持ちで一ノ瀬さんを見つめる美羽姉を安心させたくて、Tシャツを掴んでる手を外し、両手で包み込んであげた。
「学くん?」
「美羽姉、副編集長はお金にがめつい人じゃないんだ。そうですよね?」
「白鳥の言う通りと言いたいところだが、アイツは金にがめつい男だ」