憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
「だってそれは、翼くんが現在進行形でなにをしてるのか、知りたいというか」

「しかもここに、何度も足を運んでいるわよね?」

「ただ翼くんに逢いたかった……」

 少しでも翼くんと接触して、彼を春菜の虜にしたかった。それだけなのに。

「翼からセキュリティの話を聞いていたでしょ?」

「…………」

「翼の仕事は、芸能人の私怨を取り扱っている関係で、狙われることが多いの。本当はもっと、セキュリティのしっかりしたところに住めればいいんだけど」

 美羽先輩がスマホから顔をあげて、横にいる翼くんを見たら、その視線を避けるように美羽先輩の後ろに移動し、体に両腕をまわしてハグするなり、頭に顎をのせる。

「駆け出しのカメラマンの僕の給料じゃ、そんなの無理に決まってる」

「それで室内と入口に、防犯カメラを取りつけていたというわけ。まさか春菜さんが映り込むなんて、思ってもみなかった」

 嘲笑うようにふたりそろって、クスクス笑いながら春菜を見る。どこか小馬鹿にした様子は、私の中にある憤怒を、簡単に引きずり出した。

「だって! だって翼くんと仲良くなりたかった。美羽先輩を抱きしめてるみたいに、春菜も抱きしめられたかった!」

「貴女、良平さんの奥さんなのに、すごいことを言うのね」

「好きで、良平きゅんと一緒になったワケじゃない。春菜は翼くんが好きなの!」

「春菜さん、ストーカーするほど、僕のことが好きなんですね?」

 絶好の機会だと瞬時に思ったから、迷うことはなかった。春菜の気持ちを、翼くんに全部知ってほしかった。

「……好きだよ、すごく好き。翼くんの全部が知りたかったし、見たいと思った。春菜だけを見つめてほしかった」

「それが理由で、ストーカーをしたのね?」

「しちゃダメなの? 少しでも一緒にいたら翼くんは春菜のことを、絶対好きになると思ったんだもん」

 良平きゅんやその前の人だって、かわいい春菜を好きになった。

「僕が春菜さんを好きに?」

 どこか棒読みに聞こえたそれに、笑いながら答える。

「そうだよ。美羽先輩よりも若くてかわいくて、スタイルもいいし、胸だって大きい。春菜のGカップ、触り心地がすごくいいんだよ!」

 立ち上がって両手で胸を持ちあげながら、上下に揺さぶった。翼くんが触りたくなるように、ここぞとばかりに見せつける。

「そんな肉のかたまりに興味ない」

「へっ?」

「僕は美羽以外、誰も目に入らないし、触れたいとも思わない。春菜さんが今まで相手にしてきた馬鹿な男たちと、同列に扱わないでください」

「ホント、失礼よね。言質がとれたし、このまま証拠を集めて、警察に行く?」

「け、いさつ」

 春菜の乾いた声が、すぐに消えてなくなった。

「悪いことをした人を、お巡りさんに捕まえてもらわなきゃ。わかってるわよね?」

 美羽先輩の言葉で、はじめて自分がやらかしたことを思い知り、しまったと呟いてもすでに遅くて。

「違う、春菜は」

「春菜さん安心して。これ以上翼に付きまとわなきゃ、警察に提出しないでいてあげる。でもね……」

「美羽先輩、まさか――」

 その可能性が、頭によぎったそのときだった。

「貴女の夫である良平さんに、もう映像を渡しているの」

「ヒッ!」

(今までのことを良平きゅんに見られたら、間違いなく暴力を振るわれる――)

 大好きな翼くんの視線を振り切るように、一心不乱に駆け出した。良平きゅんが帰ってくるまで、まだ時間がある。彼が帰宅する前に、どこかに逃げなければならない。

「春菜さん、私にしたこともそうだけど、勤めていた会社のお金も、きっちり返さないといけないわよ!」

 せせら笑う声と一緒に、春菜の背中に声をかけられたけど、そんなの耳に入らなかった。自身の安全のために、なかなか進まない震える足を殴りながら、自宅マンションに向かった。

 春菜が帰るよりも先に、良平きゅんが帰ってきているとも知らずに――。
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