憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
「ひとりで頑張る俺を、どうして美羽は褒めてくれないんだ?」

「良平さん――」

「ごめん。なんか俺、やっぱり疲れてるみたいだ」

「そ、そうみたいだね。かなり疲れてるかも。仕事は激務な上に、毎晩遅く帰ってきてるし……」

 まるで駄々っ子みたいな彼の相手をしなきゃいけないことが、更なるストレスになっていく。浮気をしてるだけでも信じられないのに、褒めることを強要するっていったい――。

「疲れてるから、今日は早く帰る」

「良平さんの体のためにも、そのほうがいいよ」

 口では良平さんを労ったけど、浮気相手と会わない宣言ともとれるそれに、内心ホッとした瞬間だった。

「早く帰るから、今夜抱かせろよ」

 私を見る彼のまなざしに、言い知れぬ粘っこさが表れていて、今すぐ出て行ってほしい衝動に駆られる。

「ごめっ、それはちょっと無理……。安定期に入るまでは」

「俺のこと、大事じゃないのかよ!」

 良平さんが持っていた鞄を床に向かって強く投げつけたせいで、すごい音がした。中にパソコンとか精密機械が入っていないけれど、だからって投げ捨てていいものじゃない。

「ヒッ!」

 あまりの行動に後退りする私を、良平さんはいきなり抱きすくめた。

「おまえのために俺は働いてるんだ。少しは敬ったらどうだ?」

「う、うやま、ぅ?」

「美羽は俺のこと、愛してるんだろ?」

 誘うときのような低い声で、良平さんが私に問いかけたというのに、素直にそれに答える気になれず無言を貫く。

 本当は今すぐ「浮気してるクセに!」と罵ってやりたかった。それを止めたのが、良平さんの片手が私のお尻を抓ったせい。

「いっ、痛っ!」

「俺はこんなに愛しているっていうのにな。今ので濡れただろ?」

 喉の奥で笑う彼の声が、妙に鼓膜に貼りつく。彼の言動すべてに恐ろしさを感じて、体が勝手に震えてしまった。

「震えるくらいに感じてくれて嬉しい。じゃあな、行ってくる。今夜は帰ってきた俺を受け挿れられるように、ちゃんと濡らしておけよ」

 私の体を放り出すように突き飛ばし、投げ捨てた鞄を拾い上げると、颯爽と出て行った良平さん。彼の知らない一面を見せられて、リアクションにすごく困った。

 良平さんに今夜なにをされるのか、不安でならない。
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