憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
***

 良平さんの言動が怖すぎて、具合が悪いことを理由に、実家に帰ろうと思った。だけどそれを引き止めたのは、私が彼の妻だから――。

 ちょっと前までスマホで調べていたことは、妊娠出産の情報ばかりだったのに、寝室で使用済みの避妊具を見つけてからは。

「浮気、不倫、探偵調査費用、慰謝料請求にシングルマザーって、まんまサレ妻を表してる」

 悪阻で自分のことにいっぱいいっぱいだった、私が悪いのかな。良平さんの口から出た「褒めろ」「敬え」という言葉で、彼のことをかまってなかったのをあらためて思い知った。

「私がかまわないからって、浮気するとか信じられない」

 そして自分が浮気してるから、私もしてると思われてるフシがある。

『……生でヤってないのに、なんで妊娠したんだろうな』

 私の体調を心配してラインしてるんじゃなく、浮気の心配をしてるから連絡しているに違いない。

「そんな良平さんに、今夜抱かれなきゃならないなんて……」

 大好きな良平さんに抱かれるのは嬉しいことなのに、苦痛に感じるのは妊娠してるから?

 額に手を当てながら堂々巡りで考え事をしているうちに、ソファで眠ってしまった。妊娠前までは昼寝をすることなんてなかったから、ストレスで弱りきった体の疲れをとるように寝てしまう。

 ガチャガチャ!

 遠くで鍵の開く音が耳に聞こえた。その金属音がきっかけで慌てて起き上がり、壁掛け時計を仰ぎ見る。

(――ちょっと、いつも以上に早い!)

 結婚してから最速で帰宅した良平さんは、足元をふらつかせながらリビングに現れた。赤ら顔で両目は血走っているし、視線がどこか定まっていない様子は、明らかにおかしい。

「おかえり、なさぃ……」

 ソファから腰をあげると、良平さんはその場に立ち止まり、持っていた鞄を足元に置いて両手を広げた。

「ただいま!」

 両手を広げたままドヤ顔で立ち竦む行動がわからなくて、私が首を傾げると。

「美羽のために、早く帰って来てやったんだぞぉ。喜んで飛びついて来い!」

「と、飛びつく?」

「照れ屋だな、美羽は。しょうがない、俺から抱きしめてやる」

 私に向かって、勢いよく突進してきた良平さんに抱きしめられたくなかったので、寸前のところで体をかわすと、良平さんの足がソファに引っかかり、そのまま突っ伏するように、ひとりで倒れ込んだ。

「ぶっ! なんで避けたんだっ?」

 鼻の頭を撫でながら、ソファの上で恨めしそうに私を見上げる良平さんに、両手を腰に当てて大きなため息を吐いてみせた。

「避けるに決まってるでしょ。なんでこんな時間から酔っぱらってるの? お酒に弱いくせに」

「謝りたかったんだ、美羽に。今朝はお尻を抓って悪かったって。どうしても謝る勇気が出なくて、酒を煽った……」

「えっ?」

 今朝の出来事について、彼が反省しているとは思わなかったので、すごく驚いた。告げたことが本当かどうか、良平さんの顔をまじまじと凝視する。

「俺の隣に座って、ほら」

 良平さんは腰かけていたところをひとり分空けて、私に座るように促す。立ったままでいるのも悪いと思ったから、仕方なく言われたとおりにした。
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