憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
***

 その電話は真夜中に、突然かかってきた。着信音で上條課長だとわかったので、眠い目を擦りながら対応する。

「もしもし」

「おい春菜、このクソ女っ! やっぱり美羽にバレたじゃないか!」

 スマホから聞こえた、聞き覚えのある怒鳴り声。愛する奥さんとヤれた余韻に浸っているのか、口汚いことこの上ない。

「バレたって、なにが?」

 行為の最中ならいざ知らず、人が寝ているところを叩き起して、いきなり怒鳴られるのは、かなり気分が悪かった。

「ゴミ箱に捨てたハズのゴムの袋が、床に落ちてたことがあったろ。それを美羽に見られてたんだ」

「掃除がちゃんとできなかった、春菜のミスです。良平きゅんごめんね」

(おまえが部屋の掃除を普段からやっていれば、浮気の証拠は美羽先輩に見つかるハズなかったのにね。バ~カ!)

 心の中で上條課長をバカにしていると、ため息まじりの呟きがスマホから聞こえる。

「ついでに春菜の髪の毛も見つかってる。掃除ができていない証拠だよな」

「そうだね、ホント春菜は悪いコです。良平きゅん、もっと叱ってください♡」

 上條課長の苛立つ気持ちを発散させなければと、思いきり私を叱責することを促したというのに。

「…………」

「良平きゅん?」

「美羽にバレた瞬間、怖くなった……」

 彼女や奥さんがいる男は、春菜と一緒になって散々楽しんだというのに、揃って同じセリフを口にする。危ないコトをするには、当然そこにリスクが伴っているのを、彼らが知らないハズはないのに。本当に身勝手極まりない。

「だけど有能な良平きゅんは、うまいこと誤魔化すことに成功したんだよね?」

「当然だ。美羽は俺を愛してるから、信じて疑わない。浮気なんて幻想だって言い張って、信じさせてやった」

(なに言ってんのコイツ。美羽先輩に浮気がバレた時点で、愛想尽かされているだろうに。自分が愛されてる自信は、どこから出てくるのやら)

「それで、これからどうするの? スマホのチェックもされた?」

「春菜が教えてくれた非表示設定のお蔭で、スマホを見られても大丈夫だった」

「お役に立ててよかった。ラインの非表示設定の解除がいちいちめんどいけど、こういうときのために、やっておいて正解だったね」

 あらゆるラインの裏ワザを知っているゆえに、教えたそれを浮気相手が面倒くさがらずにやっていれば、男側からバレる恐れはまずない。

「良平きゅん、春菜と別れるなら、パスコード変えてよね。私の誕生日を憶えておく必要がないんだから」

 春菜の誕生日を覚えられない、悪い頭に刷り込ませるための荒業なれど、彼女や奥さんに見られたときに、なんていいわけしてるのかな。

「あのさ春菜……」

 暗く沈んだ上條課長の声を聞いてるだけで、真夜中だというのにテンションが自然とあがっていく。元々Sな私の体質が、こういうところでひょっこり顔を出してしまう。
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