憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
 学くんが見せてくれたのはTwitterで、そこには清純派を売りにしているアイドルが、誰かと一緒にどこかの建物から出てくるところが、スマホの画面に映し出されていた。

 確かワイドショーで、愛妻家と称されている俳優とこのアイドルが浮気していることが、大々的に取りあげられていた記憶がある。

「俺今、フリーカメラマンやっててさ。こういうスキャンダルなネタを追っかけてるんだ。写真は編集部に高値で売れたし、編集社経由のTwitterではバズったんだぞ」

 興奮気味に説明されたのだけど。

「でも学くん、高校生のときはモデルをしてたのに、どうしてカメラマンになったの?」

 学くんが高校生のとき、学校帰りにスカウトされた。そのことでモデルという仕事に興味を抱いて家族に言ったところ、学生なんだから学業を優先しなさいと反対されてしまった。

 どんなことにも引っ込み思案な彼が、やってみたいと私に相談を持ちかけたことは、学くんの成長を感じることができて嬉しくなった。だからふたりで、学くんの家族を粘り強く説得。きちんと了承を得たのちに、一緒にモデル事務所に顔を出した経緯がある。

「見た目がたいしたことない俺が、スカウトされる世界なんだぞ。あとからどんどんいいヤツが投入される、入れ代わりの激しい業界でさ。それで撮られる側から撮る側に、うまいことジョブチェンジしたというわけ」

「そうだったんだ……」

 てっきりモデルをしながら大学に通って、キャンパスライフを謳歌しているとばかり思っていただけに、こうして社会人として立派に働いている彼の姿を、あらためてまじまじと見つめてしまった。

(本人は見た目がたいしたことないって言ってるけど、K-POPの男性アイドルグループにいそうな顔立ちなのにな。だけど寝癖まじりのぼさぼさの髪の毛と、首回りがヨレヨレのTシャツはいただけない)

「あのとき美羽姉が親父たちを説得してくれなかったら、今の俺はないということで、フリーカメラマンの冴木学を雇ってみない?」

「学くんを雇う?」

 想像していなかった突飛とも言える問いかけに、思わず語尾をあげて返事をしてしまった。

「しっかり者の美羽姉のことだ。旦那さんの浮気がわかった時点で、いろいろ調べているだろう? 浮気相手を探るための調査費用とかさ」

 学くんにはスマホを見られていないハズなのに、そのことを指摘されて、ひゅっと息を飲む。

 微妙な表情で黙ったまま、首を縦に振ると。

「調査費用以前に、自分で浮気を調べる方法だって検索している気がする。寝室にボイスレコーダーやカメラを設置して、みたいな」

「そうだね……」

 私の短い返事が、瞬く間に室内に溶け込んだ。
< 28 / 118 >

この作品をシェア

pagetop