憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
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 巷では清純派アイドルで有名な俺の推し。学生時代から応援していた。

 その推しの不穏なウワサを調べろと編集部から連絡が着たのは、俺が彼女のことを『俺の推しなんです、かわいいっす』と常日頃から口にしていたからだった。

 ほかの理由としては、そこの編集部で扱っている記事のほとんどがスキャンダラスなものばかりゆえに、駆け出しでなにも知らない俺に現実を突きつけて、いろいろ経験させようという、編集長の考えだったのかもしれない。

 決定的な写真を狙うカメラマンの俺と、記事を書くライターが一緒になって推しに張りつき、彼女の行動を逐一マークした。その結果、15歳年上の俳優と浮気していることがわかった瞬間の心のショックは、筆舌に尽くしがたい。

「俺のショックよりも、美羽姉のほうがショックがでかいだろうな」

 自宅に戻り、靴を脱いだ瞬間に呟いてしまう。久しぶりに逢った美羽姉の疲れきった表情が、それを表していた。

 清純派だからこそノーマークだった推しの不倫現場を激写したということで、その後もあちこちから仕事が舞い込むという、非常にノっている状況なれど、美羽姉に頼まれた依頼は仕事以上のものを感じた。

「どいつもこいつも不倫しやがって! 死ねばいいのに、クズ野郎!」

 怒鳴った瞬間に、すぐ傍にあるふすまが勢いよく開け放たれた。

「クズはアンタだよ、バカ息子! 私が夜勤明けで寝てることを知ってるだろうに!」

 看護師をしているお袋は、まさに鬼のような形相だった。夜勤明けで疲れているからだろう、怖さが二割増しになってる。

「お袋に頼まれた用事を済ませてきたぞ。ついでに美羽姉にも逢えた」

「へぇ、人の尻を追いかける仕事のことは言えたのかい、白鳥翼さん?」

 嫌な言い回しに、うんと顔を歪ませてやった。

「俺がフリーカメラマンやってることくらい、美羽姉にちゃんと言えたし」

「美しい羽を持つ白鳥の翼になりたいから、この名前にしたんだとは――」

 お袋にはなにも言ってないのに、名刺を見せた途端に看破しやがった。看護師なんて辞めて刑事や探偵をやれば、もっと世の中の役に立つような気がする。

「く~~~っ、うっせぇぞ、クソババア!」

「おー怖っ。美羽ちゃんが聞いたら、絶対に幻滅するだろうね」

 そして俺が黙るワードを知っていて、いつも絶妙なタイミングでそれを使いやがる。

「不倫がどうのって、またおまえの推しが不倫したのかい? 手の届かない相手ばかり追いかけるから、そういうことになるんだよ」

「お袋には、迷惑かけてないんだからいいだろ」

 舌打ちしながら顔を逸らすと、目の前で大きなため息を吐かれた。
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