憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
***
すっかり頼もしくなった学くんが、私の部屋から帰って行ったその日の夜、午後8時半をまわった頃だった。ピンポンと鳴り響くインターフォンの音に、ビクつかずにはいられない。
「良平さんが来た……」
学くんに良平さんの情報を急いで打ち込むために、あのときは通知を無視して作業した。しかしながら既読スルーするわけにもいかないので、学くんの帰宅後に渋々目を通す。
『具合大丈夫か? 仕事が終わったら、そっちに顔を出す』
良平さんからの短いメッセージに、すかさず「来なくていいです。顔も見たくない」と返したあと、すぐに既読マークがついたものの、返信がなかったのは驚きだった。
(いつものパターンなら、私に電話してくるなり、しつこくメッセージを送ってくるハズなのに、それをしないということは、それだけ仕事が忙しいのかもしれない――)
実家にやって来るであろう良平さんを、今の今まで待ち構えていたけれど、昨日の今日でにこやかに顔をあわせることは無理だと思った。
『あら良平さん、お疲れ様。仕事帰りに、わざわざ寄ってくれてありがとうね』
インターフォンが鳴った直後に、玄関で応対するお母さんの声が、開けっ放しになっている部屋の扉の外から聞こえる。
『すみません。何度も美羽をこちらに帰すことになって』
『いいのよ。それよりもご飯食べたのかしら?』
『はい。きちんと済ませて、こちらに顔を出した次第です』
ふたりの会話を耳にしながら、両手を握りしめて勇気を振り絞った。
(今日、学くんに浮気調査の依頼を直接した時点で、マンションでひとり膝を抱えながら、うじうじ悩んでいた私じゃない。見たくない現実から逃げていても、解決しないんだから――)
意を決して立ち上がり、勢いよく階段を駆け下りた。もちろん、お腹に振動を与えないように気をつける。
「美羽……」
「良平さん、来てくれて悪いんだけど、私帰らないから!」
傍で見ていたお母さんだけじゃなく、良平さんも目を丸くして私を見つめる。普段はおとなしい私が声を荒らげているんだから、当然だろうな。
「猛省してる。もうあんなことしないし、言わないから」
「そんな言葉、信じられるわけがない。それくらい自分のしたことが、酷いものだったのを自覚して」
(――浮気を誤魔化してる時点で、信用なんてこれっぽっちもできるわけないのにね)
「済まなかった、美羽。このとおりだ」
きっちり深く頭を下げた良平さんの後頭部を見下ろしながら、今後のことについて考えた。私が帰らないほうが、良平さんは浮気しやすいだろうと。そして、浮気相手に絶対に会うように仕向けるには――。
すっかり頼もしくなった学くんが、私の部屋から帰って行ったその日の夜、午後8時半をまわった頃だった。ピンポンと鳴り響くインターフォンの音に、ビクつかずにはいられない。
「良平さんが来た……」
学くんに良平さんの情報を急いで打ち込むために、あのときは通知を無視して作業した。しかしながら既読スルーするわけにもいかないので、学くんの帰宅後に渋々目を通す。
『具合大丈夫か? 仕事が終わったら、そっちに顔を出す』
良平さんからの短いメッセージに、すかさず「来なくていいです。顔も見たくない」と返したあと、すぐに既読マークがついたものの、返信がなかったのは驚きだった。
(いつものパターンなら、私に電話してくるなり、しつこくメッセージを送ってくるハズなのに、それをしないということは、それだけ仕事が忙しいのかもしれない――)
実家にやって来るであろう良平さんを、今の今まで待ち構えていたけれど、昨日の今日でにこやかに顔をあわせることは無理だと思った。
『あら良平さん、お疲れ様。仕事帰りに、わざわざ寄ってくれてありがとうね』
インターフォンが鳴った直後に、玄関で応対するお母さんの声が、開けっ放しになっている部屋の扉の外から聞こえる。
『すみません。何度も美羽をこちらに帰すことになって』
『いいのよ。それよりもご飯食べたのかしら?』
『はい。きちんと済ませて、こちらに顔を出した次第です』
ふたりの会話を耳にしながら、両手を握りしめて勇気を振り絞った。
(今日、学くんに浮気調査の依頼を直接した時点で、マンションでひとり膝を抱えながら、うじうじ悩んでいた私じゃない。見たくない現実から逃げていても、解決しないんだから――)
意を決して立ち上がり、勢いよく階段を駆け下りた。もちろん、お腹に振動を与えないように気をつける。
「美羽……」
「良平さん、来てくれて悪いんだけど、私帰らないから!」
傍で見ていたお母さんだけじゃなく、良平さんも目を丸くして私を見つめる。普段はおとなしい私が声を荒らげているんだから、当然だろうな。
「猛省してる。もうあんなことしないし、言わないから」
「そんな言葉、信じられるわけがない。それくらい自分のしたことが、酷いものだったのを自覚して」
(――浮気を誤魔化してる時点で、信用なんてこれっぽっちもできるわけないのにね)
「済まなかった、美羽。このとおりだ」
きっちり深く頭を下げた良平さんの後頭部を見下ろしながら、今後のことについて考えた。私が帰らないほうが、良平さんは浮気しやすいだろうと。そして、浮気相手に絶対に会うように仕向けるには――。