憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
「美羽、良平さんとそんなことがあったなんて――」

 心の中でガッツポーズを作っていた私に、憂わしげな表情で話かけてきたお母さん。昨夜のことを暴露したついでに、すべて曝け出すことにした。

「今回のこともだけど、決定的な証拠が集まるまでは、お父さんに黙っていてほしいんだ」

「決定的な証拠?」

「良平さん、浮気してるの」

 淡々とした口調で告げた私に、お母さんは大きく目を見開き、両手で口元を押さえた。

「私が悪阻でここに帰ってきたせいで、寂しくなって不倫したのかもしれない」

「そんなこと……、寂しいからって美羽を裏切るなんて!」

「それでも私のおなかには、良平さんとのコがいるんだよね」

 言い終える前に、お母さんが私に抱きついた。そしていたわるように背中をさすってくれる。何度も何度も。

(優しすぎるお母さんに、これ以上暴露したら、ショックで倒れるかもしれないな。だけどこれだけは、きちんと伝えなきゃいけない。だって同級生の息子さんを巻き込んでるんだし)

「今日、学くんに逢ったでしょ。彼に良平さんが浮気してる証拠を撮ってきてって、思いきって頼んじゃった!」

「美羽つらいのにそんなに、はしゃがなくていいから」

 さらに雰囲気が暗くならないようにしたつもりが、かえってアダになってしまうのは、私とお母さんが親子だからだろう。

「お母さん、きっと学くんなら、すごくいい写真をバッチリ撮ってきてくれそうじゃない?」

「そうだったの。そんな話をしたのね……」

 お母さんはひとしきり私の背中を撫でてから、ゆっくり体を離した。同じくらいの身長なので、視線が真正面でかち合う。

 お母さんの瞳に映る私の顔は、寂しげにほほ笑んでいた。

 良平さんの浮気が判明してからというもの、悲しみに打ちひしがれてしまって、喜怒哀楽の喜と楽が完全に欠如した生活を送った。笑うことをすっかり忘れた私の前に突如現れた、学くんの存在がすごく大きく感じることができた。

 どんな笑みにしろ、笑うことができるのは精神衛生上いいことだと思える。心にしっかり酸素がいき渡ったおかげで、正常な判断ができるようになった。その結果、良平さんを浮気相手に誘導することを思いついた。

(さっきのことでイラついて、お酒を飲んだ状態で浮気相手のところに行って、良平さんが思う存分に暴れてくれたら、私の中にある負の感情がほんの少しだけ薄れるかもしれない――)
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