憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
***
美羽姉を好きになったきっかけ――あれは忘れもしない、俺が小学五年生のとき。
夏祭りの夜店にクラスの友達と行こうとしたら『子どもだけで夜に出歩くなんて、駄目に決まってるだろ。いっちょ前のことを言うんじゃあないよ』と鬼ババに叱られたため、保護者の代役として、美羽姉が仲のいい女子と同伴してくれることになった。
三人並んで、それなりに行き交う人混みをやり過ごしていたら、酔っ払ったオッサンが目の前でふらつきながら、美羽姉にぶつかってきた。危ないと思って、すかさず俺が盾になったものの、小学五年男児VSガタイのいいオッサンなんて、勝敗は決まってる。
俺は呆気なくその場に倒れ込み、膝を擦りむいた。無様な俺に、美羽姉が慌てて駆け寄る。
『学くん、大丈夫?』
「へーきへーき、こんなの舐めときゃ治るって」
擦りむいた膝小僧が結構痛かったけど、へらっと笑ってやり過ごした俺。心配させてしまったことに、自分なりに気を遣ったつもりだった。
笑いかける俺とは反対に、美羽姉はあからさまに怒った顔で、目の前にいるオッサンに視線を飛ばした。
『このコに謝ってください!』
「あ~、なんだって?」
『おじさんがぶつかったせいで、このコが怪我をしたんです。悪いことをしたら、謝るのは当たり前のことでしょう?』
俺を立ち上がらせてから、ガタイのいいオッサンを睨みあげ、真正面から対峙した美羽姉。俺の背中に添えてる左手が、僅かに震えていた。
「美羽、もういいじゃん。人が集まってきてる……」
美羽姉の友達がキョロキョロしながら、周りを気にし始める。
『そんなの関係ない。悪いことをしたのに、そのまま無視するなんて、絶対にしちゃいけないことだから』
女子高生がオッサンに噛みつく姿は、野次馬の目にどんなふうに映ったのかわからないが、俺は痺れるような感覚を覚えた。
本当は怖くてたまらないのに、それを我慢してでも自分の中にある正義を大人相手に無謀にも振りかざす、美羽姉がカッコよく見えたと同時に、一瞬で好きになってしまった。
だからこそ美羽姉の中にあるそれを守るために、俺は早く大人になりたかった。守りたい人を守れない小学五年生の小さな俺じゃなく、体も心も大きい、美羽姉をきちんと守れる大人になりたかった。
モデルにスカウトされたときも、美羽姉に認めてもらいたくて、やってみた経緯がある。
(――学くん、すごくカッコイイ! なぁんて、まったく言われなかったけどな!)
つくづく美羽姉の好みの範疇に入らない、自身の見た目やいろんなものを省みながら、目標物の背後を慎重に尾行した。
推しの尾行をするときも、事前に自室にて呪詛の言葉を散々吐き捨てて、無駄な感情を捨て去った状態で仕事をしたので、今回も同じことをやった。
お袋には「まったく煩いコだね」「心の中でシャウトしたらどうだい?」「紙に書いて燃やせばいいのに」と文句を言われ続けたが、いい感じにリセットしたおかげで、最高の瞬間を狙うことができる。
浮気相手が住むマンションに到着した美羽姉の旦那さんは、不純な感情を示すように、目尻をだらしなく下げた状態で扉を開けた。すると待ち構えていたのか、髪の長い愛人が顔を出し、彼の首に両腕をかけて抱擁する。まさに絶好のシャッターチャンスだった。
美羽姉を好きになったきっかけ――あれは忘れもしない、俺が小学五年生のとき。
夏祭りの夜店にクラスの友達と行こうとしたら『子どもだけで夜に出歩くなんて、駄目に決まってるだろ。いっちょ前のことを言うんじゃあないよ』と鬼ババに叱られたため、保護者の代役として、美羽姉が仲のいい女子と同伴してくれることになった。
三人並んで、それなりに行き交う人混みをやり過ごしていたら、酔っ払ったオッサンが目の前でふらつきながら、美羽姉にぶつかってきた。危ないと思って、すかさず俺が盾になったものの、小学五年男児VSガタイのいいオッサンなんて、勝敗は決まってる。
俺は呆気なくその場に倒れ込み、膝を擦りむいた。無様な俺に、美羽姉が慌てて駆け寄る。
『学くん、大丈夫?』
「へーきへーき、こんなの舐めときゃ治るって」
擦りむいた膝小僧が結構痛かったけど、へらっと笑ってやり過ごした俺。心配させてしまったことに、自分なりに気を遣ったつもりだった。
笑いかける俺とは反対に、美羽姉はあからさまに怒った顔で、目の前にいるオッサンに視線を飛ばした。
『このコに謝ってください!』
「あ~、なんだって?」
『おじさんがぶつかったせいで、このコが怪我をしたんです。悪いことをしたら、謝るのは当たり前のことでしょう?』
俺を立ち上がらせてから、ガタイのいいオッサンを睨みあげ、真正面から対峙した美羽姉。俺の背中に添えてる左手が、僅かに震えていた。
「美羽、もういいじゃん。人が集まってきてる……」
美羽姉の友達がキョロキョロしながら、周りを気にし始める。
『そんなの関係ない。悪いことをしたのに、そのまま無視するなんて、絶対にしちゃいけないことだから』
女子高生がオッサンに噛みつく姿は、野次馬の目にどんなふうに映ったのかわからないが、俺は痺れるような感覚を覚えた。
本当は怖くてたまらないのに、それを我慢してでも自分の中にある正義を大人相手に無謀にも振りかざす、美羽姉がカッコよく見えたと同時に、一瞬で好きになってしまった。
だからこそ美羽姉の中にあるそれを守るために、俺は早く大人になりたかった。守りたい人を守れない小学五年生の小さな俺じゃなく、体も心も大きい、美羽姉をきちんと守れる大人になりたかった。
モデルにスカウトされたときも、美羽姉に認めてもらいたくて、やってみた経緯がある。
(――学くん、すごくカッコイイ! なぁんて、まったく言われなかったけどな!)
つくづく美羽姉の好みの範疇に入らない、自身の見た目やいろんなものを省みながら、目標物の背後を慎重に尾行した。
推しの尾行をするときも、事前に自室にて呪詛の言葉を散々吐き捨てて、無駄な感情を捨て去った状態で仕事をしたので、今回も同じことをやった。
お袋には「まったく煩いコだね」「心の中でシャウトしたらどうだい?」「紙に書いて燃やせばいいのに」と文句を言われ続けたが、いい感じにリセットしたおかげで、最高の瞬間を狙うことができる。
浮気相手が住むマンションに到着した美羽姉の旦那さんは、不純な感情を示すように、目尻をだらしなく下げた状態で扉を開けた。すると待ち構えていたのか、髪の長い愛人が顔を出し、彼の首に両腕をかけて抱擁する。まさに絶好のシャッターチャンスだった。