憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
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 学くんが実家に顔を出したのは、依頼してから4日目という早い再来だった。私としては驚かずにはいられない。

 お母さんは私の部屋にお茶菓子を用意してから、「学くん、お願いね」とひとこと言って、そっと扉を閉じた。ふたりきりの空間にされても、誠実な彼が変なことをしないのはわかっているので、安心していられる。

「美穂おばさんに、旦那さんのこと言ったのか?」

 お母さんの微妙な態度を目の当たりにして、学くんなりになにか感じ取ったんだろう。

「うん。お父さんにはナイショにしてる。知ったら烈火のごとく、良平さんに食ってかかるのがわかるし」

「あー、それはわかるかも。美羽姉の真っ直ぐな性格は、親父さん譲りだしな」

「それ、褒めてるの? それとも貶してる?」

 テーブルを挟んでの世間話に終止符を打つべく、学くんはゴホンと咳払いをしてから口を開く。

「仕事の合間に調査したんだけど、相手がガバガバでさ」

「ガバガバ?」

 いろんな意味にとることのできるそれに、私は首を傾げた。

「承認欲求が強いのか、情報がつぶさにインスタにあげられてる。これを見てくれ」

 学くんが持っていたクリアファイルから、見てほしい書類を取り出した。

「これは――」

 よく知ってる人の顔だった。怒りで胸がいっぱいになり、書類を手にする指先が小刻みに震える。

 ベッドで横たわる男性を背にして、両手の指先でハートを作って満面の笑みを浮かべ、かわいらしくポーズを決めてる彼女の写真と『今夜も彼をひとりじめ♡』というコメントが、私の心に言い知れぬ衝撃を与えた。

「旦那さんの浮気相手、長谷川春菜。美羽姉の会社にいる同僚だ」

「なんで長谷川さんが、良平さんと浮気してるの?」

 手渡された書類と学くんの顔を交互に見ても、疑問は解決しないのに、せずにはいられない。

「ちなみに長谷川春菜が美羽姉の会社に転職した理由、聞いてないだろ? まぁ普通の神経してたら、自分から言えるわけないんだけどさ」

「あえて聞かなかった。仲良くなれば、そういう話ができるかと思ったんだけど、そこまで親しくなれなかったのよね」

 私がそう言うと学くんは「やっぱりな」とひとこと呟き、視線を遠くに飛ばしながら説明する。

「上司との不倫が原因で退職してる。上司が一方的に長谷川春菜に執着して、無理やり不倫関係を続けていたって表向きなってるけど、左遷させられた上司の話を聞くと、なんか違うらしくてさ」

「もしかして、長谷川さんにハメられたとか?」

「上司の言い分すべてが、信用に値するものなのかもわからないし、裏付けも時間がなくてとってないから何とも言えないけどさ、交友関係を調べていくうちにわかったのは、この女がヤバいヤツだってことなんだ」

 複雑な心境を抱えながら、彼女がアップしているインスタの記事に視線を落とした。
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