憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
「キャッ! なにこれ、いい感じに撮れてる!」
玄関前で抱き合うふたりの写真を手に取り、嬉しそうに眺める神経がさっぱり理解できない。
「美羽先輩、探偵とかそういうのをわざわざ雇って、コレを撮ったんですか?」
「知り合いに、そういうのを仕事にしている人がいるの」
淡々と答えて、次に備える。相手のペースに巻き込まれないようにしつつ、こっちの情報をあまり出さないようにして、うまいこと話を進めていくのを念頭に、ふたたび長谷川さんに話しかける。
「良平さんと長谷川さんが浮気してる証拠が明らかになった以上、もう言い逃れができないでしょう?」
「私、隠すつもりなんて、これっぽっちもなかったんですよ」
「は――?」
あっけらかんとして告げられた言葉は意外すぎて、二の句が継げられない。長谷川さんが告げたタイミングで私がオレンジジュースを飲んでいたら、驚きのあまりに吹き出していたかもな。
(会社に電話したときは、同僚経由で彼女に繋げてもらったけど、違和感なく普通に繋げてもらえたし、私に対して同僚も変なリアクションがなかったところを見ると、良平さんと長谷川さんが浮気していることに、周りも気づいていないということか)
自分なりに考察していると、長谷川さんがにんまり微笑んで肩を竦めた。
「相手の奥さんや恋人にバレたら、その関係はおしまい。ジ・エンド。だって続けるだけ無駄ですもん」
「貴女、今回のことだけじゃなくて、過去でも誰かのパートナーを奪っているのね。なにを考えて、相手の傷つくことをしてきたの?」
理解できないなら聞き出せばいい――そんな気持ちのもとで、長谷川さんに疑問をぶつけた。
そのタイミングで注文したオレンジジュースが、目の前に置かれる。ウェートレスが一礼して消えたあと、それを一口飲んだピンク色の唇が語り出した。
「美羽先輩、この世にはたくさんのカップルがいますよね。結婚してる人も含めて」
「そうね……」
「独り身の私としては、純粋に羨ましいなぁって思ったんです。だって寂しくて――」
ガックリと俯き、目尻に手をやる様子に白々しさを感じたので、無反応を決め込んで見守ったら。
「結婚して幸せな美羽先輩には、全然わかりませんよね。ロンリーな私の気持ちなんて」
「…………」
(――自分勝手ね。他人のものに平然と手を出して、散々苦しめている立場だというのに、雄弁に語るとは)
「誰かのぬくもりが傍にないと、不安で寝られないんです。私のことを愛してくれる誰かがいないと、寂して死んじゃうくらいに怖いんです!」
テーブルを挟んだむこう側にある体が小刻みに震えていき、やがてテーブルに突っ伏する。
「長谷川さん……」
「美羽先輩、ごめんなさい。だって良平きゅん、すごーく優しいんだもん」
鼻水をすする音が聞こえたので、鞄からポケットティッシュを取り出し、彼女の目の前にそっと置いた。
「それ、使っていいから」
「…………」
「さっさとそれで、鼻水を拭ってちょうだい。話し合いができないでしょう」
とげとげしさを漂わせる言い方をしたら、突っ伏している体がびくりと震えたのちに、音もなく顔があげられる。私の目に映る長谷川さんの様相は、泣いている様子がまったくなかった。
目に角を立てた彼女が口にしたのは――。
玄関前で抱き合うふたりの写真を手に取り、嬉しそうに眺める神経がさっぱり理解できない。
「美羽先輩、探偵とかそういうのをわざわざ雇って、コレを撮ったんですか?」
「知り合いに、そういうのを仕事にしている人がいるの」
淡々と答えて、次に備える。相手のペースに巻き込まれないようにしつつ、こっちの情報をあまり出さないようにして、うまいこと話を進めていくのを念頭に、ふたたび長谷川さんに話しかける。
「良平さんと長谷川さんが浮気してる証拠が明らかになった以上、もう言い逃れができないでしょう?」
「私、隠すつもりなんて、これっぽっちもなかったんですよ」
「は――?」
あっけらかんとして告げられた言葉は意外すぎて、二の句が継げられない。長谷川さんが告げたタイミングで私がオレンジジュースを飲んでいたら、驚きのあまりに吹き出していたかもな。
(会社に電話したときは、同僚経由で彼女に繋げてもらったけど、違和感なく普通に繋げてもらえたし、私に対して同僚も変なリアクションがなかったところを見ると、良平さんと長谷川さんが浮気していることに、周りも気づいていないということか)
自分なりに考察していると、長谷川さんがにんまり微笑んで肩を竦めた。
「相手の奥さんや恋人にバレたら、その関係はおしまい。ジ・エンド。だって続けるだけ無駄ですもん」
「貴女、今回のことだけじゃなくて、過去でも誰かのパートナーを奪っているのね。なにを考えて、相手の傷つくことをしてきたの?」
理解できないなら聞き出せばいい――そんな気持ちのもとで、長谷川さんに疑問をぶつけた。
そのタイミングで注文したオレンジジュースが、目の前に置かれる。ウェートレスが一礼して消えたあと、それを一口飲んだピンク色の唇が語り出した。
「美羽先輩、この世にはたくさんのカップルがいますよね。結婚してる人も含めて」
「そうね……」
「独り身の私としては、純粋に羨ましいなぁって思ったんです。だって寂しくて――」
ガックリと俯き、目尻に手をやる様子に白々しさを感じたので、無反応を決め込んで見守ったら。
「結婚して幸せな美羽先輩には、全然わかりませんよね。ロンリーな私の気持ちなんて」
「…………」
(――自分勝手ね。他人のものに平然と手を出して、散々苦しめている立場だというのに、雄弁に語るとは)
「誰かのぬくもりが傍にないと、不安で寝られないんです。私のことを愛してくれる誰かがいないと、寂して死んじゃうくらいに怖いんです!」
テーブルを挟んだむこう側にある体が小刻みに震えていき、やがてテーブルに突っ伏する。
「長谷川さん……」
「美羽先輩、ごめんなさい。だって良平きゅん、すごーく優しいんだもん」
鼻水をすする音が聞こえたので、鞄からポケットティッシュを取り出し、彼女の目の前にそっと置いた。
「それ、使っていいから」
「…………」
「さっさとそれで、鼻水を拭ってちょうだい。話し合いができないでしょう」
とげとげしさを漂わせる言い方をしたら、突っ伏している体がびくりと震えたのちに、音もなく顔があげられる。私の目に映る長谷川さんの様相は、泣いている様子がまったくなかった。
目に角を立てた彼女が口にしたのは――。