憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
『キャッ!』

『これ以上抵抗したら、この間撮った恥ずかしい写真を社内にバラまくぞ。あれを見たら男性社員たちは、さぞかし興奮するだろうがな』

 ふたたび布地を割く音と、パンっという皮膚を叩く音を耳にして、あまりの出来事に絶望し、込み上げるなにかが出ないように、両手で口を押さえる。そんな私の様子を見、長谷川さんはスマホの画面をタップして、音声を停めてくれた。

「逆らうと殴る蹴るをされます。服で隠れる部分を狙われるので、周りからは気づかれないんですよ……」

 スマホをしまいながら涙ながらに説明されたのだけれど、私が「酷いことをされたのね。かわいそう」なんて、優しい声をかけると思ったのかな。

「それをやった本人がいない以上、証拠にはならない」

「タイミング悪かったですよねぇ。良平きゅんは営業で外に出ていて、そのまま接待コースなんですもん」

(いつどこでやったのかをこの場で問い詰めたところで、相手がいない以上はうまいこと誤魔化されるでしょうね)

「逆に聞きたいんだけど、どうしてコレを録音したの? この場に出すためだけに録音したの?」

 ところどころアクセントを強調しながら問いかけつつ、柔和な笑顔を作って彼女を見つめると、目の前にある顔が焦ったような面持ちになり、大きな黒目が少しだけ泳ぐ。はじめて長谷川さんが動揺した瞬間だった。

「どうして答えられないの? やましいことがあるから、答えられないんじゃない?」

『俺はこの仕事をした関係で不倫だけじゃなく、たくさんの不正を見てきた。人は隠したいことがあると絶対に嘘をつく。そしてその嘘を正当化しようとして、さらに嘘を重ねる。嘘を重ねれば重ねるだけ、そこに歪みが生じるから、綻びが生まれるんだ』

 祈るように両手を合わせてテーブルの上に置いた学くんの姿と、この場にいる私の姿が自然と重なった。

 このセリフを告げたときの彼は、テレビに出てくる名探偵のように格好良かった。

 長谷川さんから繰り出されるたくさんの口撃は、間違いなく嘘が混じっているハズ。そこから歪みを探し出し、綻びを的確に突けばいい。

「良平きゅんと別れるときに使おうと思ったんです。美羽先輩に聞かせたみたいに、第三者を介してうまく別れるために、これを録音しました」

「長谷川さん、本当に別れる気があるの?」

 澱みなく喋る彼女の表情に陰りはまったくなく、傍から見ても別れるような感じにとれなかった。

「別れますよ。私は被害者なんですから、慰謝料請求しないでくださいね」
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