憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
「それと、これなんだけど」

 そう言って見せてくれたのは学くんのスマホで、画面には長谷川さんと話し合いをしたテーブルの上が大きく表示されていた。

「オレンジジュースの入ったコップが、ふたつあるだろ。美羽姉が座ってたほうはほぼ満タンで、あの女のは半分残ってるよな」

「うん、そうだね」

 学くんはしっかり確認するようにそれぞれに指を差し、怪訝な顔のまま訊ねる。

「美羽姉、これに口つけた?」

「ううん。ウェートレスさんが置いていったままだよ。口はおろか、触れてもいない」

「そうなんだ」

「このオレンジジュース、長谷川さんが勝手にオーダーしたものなの。香水の匂いにやられた私が、これを飲む余裕がなかったっていうのもあるんだけどね」

 ファミレスでのことを説明していると、目の前で美味しそうにオレンジジュースを飲む長谷川さんのしたり顔が思い出された。勝ち誇った顔を見るだけで、あのときはかなりムカついたのに、今はそんなことすらどうでもよくなっていた。

「何度も音声を聞き直して、あれ?って思ったのが、美羽姉が急激に具合が悪くなったからさ。あの女がオレンジジュースに、なにかを仕込んだんじゃないかと思ったんだ」

「それで写真を撮ったのね。さすがはスクープカメラマン」

 私が褒めたというのに、学くんはこの間みたいに照れることなく、まぶたを伏せながら人差し指で頬を掻く。

「写真を撮ったのは反射的に。なんつーか、カメラマンとしての勘ってやつ。話し合いした当人同士がいない以上、証拠にもならないのに、気づいたら撮影してた」

「でも、そういうの大事だと思うよ。何の気なしに撮ったものが、あとから使える写真になるかもしれないよね」

「そんなことよりも美羽姉、どうして泣かないんだ。悲しくないのかよ……」

 学くんは点滴を受けていない私の手を両手で握りしめ、額にぎゅっと押し当てる。

「悲しいよ、本当に」

「俺が頼りない男だから! 大事なときに駆けつけられないダメな男だから、美羽姉に気を遣わせて無理して笑わせてる」

「無理してないの、違うから」

 学くんの語尾に重ねるように、言の葉を告げた。悲しさ表す真っ赤な目が、私の顔を捉える。
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