憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
「しかもその繊細な体をアンタは弄び、心も体も傷つけたところでアバズレの登場だ。あの女、間違いなくなんらかの方法で、美羽姉の体に攻撃したに違いない」
「なにを言い出すかと思ったら。春菜にそんなことができるとは思えない……」
ひきつり笑いで、この場をやり過ごそうとする良平さんに、敵意を含んだまなざしで見つめ返した学くんが、さらに追い討ちをかける。
「アバズレと入れ違いに俺が現場に駆けつけたとき、鼻をつまみたくなるくらいに、すげぇ変な匂いが漂ってた。花の香りのほかに、草っぽい匂いもいろいろ混じってた。嫌な予感がしたんで、美羽姉が病院で治療を受けてる間、それについて調べてみたんだ」
「…………」
「アロマの中には妊娠中に使用すると、子宮収縮を促したり女性ホルモンのバランスを崩す作用のものがある。それもひとつやふたつじゃない、たくさんあった」
妊婦として妊娠中に使ってはいけないものや、食べものなどあらかじめ調べていた。知識として知ってはいても、実際にそのものをわざわざ手に取ることはないし、匂いだって嗅ぐこともない。
長谷川さんがそれらをわざわざ調べあげて、私を陥れようとしたことを知り、そこまで恨まれる理由がわからなくて、背筋がゾッした。
「俺はなにも知らない。春菜が勝手にやったことだ」
「どうしてアバズレがそんなことをしたのか、アンタはなにも思いつかないのかよ」
「知らない……」
「美羽姉がどれだけアンタのことを想っているのか、それすら考えないから、平然と浮気ができるんだろ」
俯きながら体を震わせて、悔しそうに言い放つ学くんを見てるだけで、私から良平さんに声をかけなくていいやと、やるせない気持ちになった。
「おまえたちの目的はアレか? 金がめあてなんだろうさ」
良平さんの馬鹿にしたような口調は、私に瞬間的な苛立ちを与えた。
「なに言ってるの。お金で解決しようなんて、これっぽっちも思ってない!」
「だよな。俺への当てつけに若い男を引っ張りこんで、浮気してるくらいなんだから」
「学くんは幼なじみだって言ってるでしょう!」
「俺は見たんだ。病室に入ったときに、手を握りあっていただろ。人目がないのをいいことに、イチャイチャしやがって!」
ああ言えばこう言う。まったく話にならない。
「流産して傷ついてる私を、学くんなりに励ましてくれただけ。ただの思いやりをそんなふうにとるなんて、人として最低だわ」
「離婚だ。夫である俺を裏切ったクセに、生意気なことを言うなぁっ!」
自分の口から言おうとした言葉を先に告げられたことは、かなりショックだった。胸の奥から言い知れぬ感情が溢れ出し、目元が熱くなっていく。
「離婚届と一緒に、手切れ金を実家に送ってやる。記入したら役所に提出しとけ」
「ちょっと待って!」
「うるさい! 金の切れ目が縁の切れ目だ」
良平さんは一方的にまくし立ててから、逃げるように病室を出て行った。
「美羽姉……」
「変ね。すごく悲しくて泣きたいのに、涙が全然出ない。声をあげて泣きじゃくりたいのに、それができないの……」
笑いながら学くんを見上げた瞬間、大きな胸の中に抱かれた。
「美羽姉が泣けないのなら、俺が代わりに泣いてやる。だけど泣き顔を見られたくないから、しばらくこのままでいさせてほしい」
私の代わりに泣いてくれる学くんに抱かれながら、これからのことを考える。抱きしめられる体には学くんのぬくもりが確実に伝わっているのに、なぜかどんどん冷たくなったのだった。
「なにを言い出すかと思ったら。春菜にそんなことができるとは思えない……」
ひきつり笑いで、この場をやり過ごそうとする良平さんに、敵意を含んだまなざしで見つめ返した学くんが、さらに追い討ちをかける。
「アバズレと入れ違いに俺が現場に駆けつけたとき、鼻をつまみたくなるくらいに、すげぇ変な匂いが漂ってた。花の香りのほかに、草っぽい匂いもいろいろ混じってた。嫌な予感がしたんで、美羽姉が病院で治療を受けてる間、それについて調べてみたんだ」
「…………」
「アロマの中には妊娠中に使用すると、子宮収縮を促したり女性ホルモンのバランスを崩す作用のものがある。それもひとつやふたつじゃない、たくさんあった」
妊婦として妊娠中に使ってはいけないものや、食べものなどあらかじめ調べていた。知識として知ってはいても、実際にそのものをわざわざ手に取ることはないし、匂いだって嗅ぐこともない。
長谷川さんがそれらをわざわざ調べあげて、私を陥れようとしたことを知り、そこまで恨まれる理由がわからなくて、背筋がゾッした。
「俺はなにも知らない。春菜が勝手にやったことだ」
「どうしてアバズレがそんなことをしたのか、アンタはなにも思いつかないのかよ」
「知らない……」
「美羽姉がどれだけアンタのことを想っているのか、それすら考えないから、平然と浮気ができるんだろ」
俯きながら体を震わせて、悔しそうに言い放つ学くんを見てるだけで、私から良平さんに声をかけなくていいやと、やるせない気持ちになった。
「おまえたちの目的はアレか? 金がめあてなんだろうさ」
良平さんの馬鹿にしたような口調は、私に瞬間的な苛立ちを与えた。
「なに言ってるの。お金で解決しようなんて、これっぽっちも思ってない!」
「だよな。俺への当てつけに若い男を引っ張りこんで、浮気してるくらいなんだから」
「学くんは幼なじみだって言ってるでしょう!」
「俺は見たんだ。病室に入ったときに、手を握りあっていただろ。人目がないのをいいことに、イチャイチャしやがって!」
ああ言えばこう言う。まったく話にならない。
「流産して傷ついてる私を、学くんなりに励ましてくれただけ。ただの思いやりをそんなふうにとるなんて、人として最低だわ」
「離婚だ。夫である俺を裏切ったクセに、生意気なことを言うなぁっ!」
自分の口から言おうとした言葉を先に告げられたことは、かなりショックだった。胸の奥から言い知れぬ感情が溢れ出し、目元が熱くなっていく。
「離婚届と一緒に、手切れ金を実家に送ってやる。記入したら役所に提出しとけ」
「ちょっと待って!」
「うるさい! 金の切れ目が縁の切れ目だ」
良平さんは一方的にまくし立ててから、逃げるように病室を出て行った。
「美羽姉……」
「変ね。すごく悲しくて泣きたいのに、涙が全然出ない。声をあげて泣きじゃくりたいのに、それができないの……」
笑いながら学くんを見上げた瞬間、大きな胸の中に抱かれた。
「美羽姉が泣けないのなら、俺が代わりに泣いてやる。だけど泣き顔を見られたくないから、しばらくこのままでいさせてほしい」
私の代わりに泣いてくれる学くんに抱かれながら、これからのことを考える。抱きしめられる体には学くんのぬくもりが確実に伝わっているのに、なぜかどんどん冷たくなったのだった。