憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
***
怒りに身を任せながら、春菜の住むマンションに向かった。静まり返る街の中に、俺の靴音が響き渡る。苛立って歩いているせいか、革靴から出る音がいつもより大きくて、聞けば聞くほど煩わしさがつのっていく。
(どうすれば正しかったのかなんて、いまさら考えても遅いというのに。俺があの女の誘惑に負けずに、手を出さなければよかっただけ――)
「気持ちはずっと美羽にあるんだから、浮気と言うよりも、浮体と称したらピッタリな関係だろうな」
病室の扉をスライドした瞬間、垣間見たふたりの姿は、本来ならあの場所にいるのが俺だったハズ。そもそも春菜と浮気さえしていなければ、美羽だってこんなことにはならなかった。そしてあの若い男――。
「クソっ、あの幼なじみのヤツ、絶対に美羽のことが好きだろ」
美羽を見るときの恋情のこもったまなざしが、それを示していた。美羽がそれに気づいているかなんて知らないが。
「気づいていたら、俺とは結婚していなかったか。しっかりしているようなのに、変なところに鈍いところもあってドジするし、それでもひたむきに一生懸命仕事に取り組む姿を見て、俺は美羽を好きになった……」
『上條課長って呼び慣れてるせいで、良平さんって言うのが、なんだか変な感じがします』
「俺も。美羽って呼ぶの、気恥ずかしい。だけど呼べば呼ぶほど、俺の恋人なんだって思わされて、もっと呼びたくなる」
『良平さん……』
「美羽、愛してる」
付き合いたての頃は、互いの気持ちが同じなのがわかった。たくさん愛の言葉を告げて、体だけじゃなく心も愛し合った。
美羽が妊娠したときは、驚きよりも本当に嬉しかった。結婚することによって、彼女を自分だけの女にした。誰も手が出せないだろうって安堵した。
それなのに――。
「春菜、おまえの存在が俺をダメにした……」
誰かを傷つける感情を抑えるのは、人として当たり前のこと。殴るのはもちろん、蹴るなんてもってのほかだ。
『これは春菜からのご褒美。好きにしていいんだよ♡』
『上條課長は立場上、周りの人にたくさん気を遣ってるの春菜は知ってる。すっごく頑張ってるよね』
『今日、嫌なことがあったんでしょ。そのストレス春菜にぶつけて。全部受け止めてあ・げ・る♡』
『良平きゅん、痛くて気持ちいいぃっ! もっともっと痛くしてぇ。春菜のことたぁくさん罵って! はぁん、たまんなぁい♡』
抑え込んでいた感情を根こそぎ引きずり出された結果、ちょっとしたことでキレるようになった。感情が爆発する衝撃で、手が出るようになる始末。最低な男に成り下がってしまった。
「離婚って言ったとき、美羽のヤツ悲しそうな顔をしていたな」
この世で一番愛おしい君を守るために、俺は喜んで身を引く。それ以外の選択肢が見つからなかったし、誰かを平気で傷つける俺とアイツから、遠のかせなければならない。
そのために俺は精一杯の虚勢を張って、さよならを告げた。それなのに後悔と苛立った気持ちが、心を支配する。ドス黒く染まった心をぶつける相手はただひとり――。
「春菜待ってろよ。サンドバッグの時間だ……」
怒りに身を任せながら、春菜の住むマンションに向かった。静まり返る街の中に、俺の靴音が響き渡る。苛立って歩いているせいか、革靴から出る音がいつもより大きくて、聞けば聞くほど煩わしさがつのっていく。
(どうすれば正しかったのかなんて、いまさら考えても遅いというのに。俺があの女の誘惑に負けずに、手を出さなければよかっただけ――)
「気持ちはずっと美羽にあるんだから、浮気と言うよりも、浮体と称したらピッタリな関係だろうな」
病室の扉をスライドした瞬間、垣間見たふたりの姿は、本来ならあの場所にいるのが俺だったハズ。そもそも春菜と浮気さえしていなければ、美羽だってこんなことにはならなかった。そしてあの若い男――。
「クソっ、あの幼なじみのヤツ、絶対に美羽のことが好きだろ」
美羽を見るときの恋情のこもったまなざしが、それを示していた。美羽がそれに気づいているかなんて知らないが。
「気づいていたら、俺とは結婚していなかったか。しっかりしているようなのに、変なところに鈍いところもあってドジするし、それでもひたむきに一生懸命仕事に取り組む姿を見て、俺は美羽を好きになった……」
『上條課長って呼び慣れてるせいで、良平さんって言うのが、なんだか変な感じがします』
「俺も。美羽って呼ぶの、気恥ずかしい。だけど呼べば呼ぶほど、俺の恋人なんだって思わされて、もっと呼びたくなる」
『良平さん……』
「美羽、愛してる」
付き合いたての頃は、互いの気持ちが同じなのがわかった。たくさん愛の言葉を告げて、体だけじゃなく心も愛し合った。
美羽が妊娠したときは、驚きよりも本当に嬉しかった。結婚することによって、彼女を自分だけの女にした。誰も手が出せないだろうって安堵した。
それなのに――。
「春菜、おまえの存在が俺をダメにした……」
誰かを傷つける感情を抑えるのは、人として当たり前のこと。殴るのはもちろん、蹴るなんてもってのほかだ。
『これは春菜からのご褒美。好きにしていいんだよ♡』
『上條課長は立場上、周りの人にたくさん気を遣ってるの春菜は知ってる。すっごく頑張ってるよね』
『今日、嫌なことがあったんでしょ。そのストレス春菜にぶつけて。全部受け止めてあ・げ・る♡』
『良平きゅん、痛くて気持ちいいぃっ! もっともっと痛くしてぇ。春菜のことたぁくさん罵って! はぁん、たまんなぁい♡』
抑え込んでいた感情を根こそぎ引きずり出された結果、ちょっとしたことでキレるようになった。感情が爆発する衝撃で、手が出るようになる始末。最低な男に成り下がってしまった。
「離婚って言ったとき、美羽のヤツ悲しそうな顔をしていたな」
この世で一番愛おしい君を守るために、俺は喜んで身を引く。それ以外の選択肢が見つからなかったし、誰かを平気で傷つける俺とアイツから、遠のかせなければならない。
そのために俺は精一杯の虚勢を張って、さよならを告げた。それなのに後悔と苛立った気持ちが、心を支配する。ドス黒く染まった心をぶつける相手はただひとり――。
「春菜待ってろよ。サンドバッグの時間だ……」