憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
「へっ?」

 怪訝な顔した私を他所に、大柄な体が玄関から家の中に堂々とあがり込んで、リビングをキョロキョロした。そのあとにキッチンに移動して、ゴミをかためているスペースに跪く。

「あ……」

 彼の手が手早くゴミ袋を漁っていくうちに、たくさんの空き瓶が入ってる袋に触れた瞬間、大きな背中が固まる。動きがぴたりと止まったことで、これからなされるであろう追求から逃れるべく、ありきたりなセリフを必死になって考えた。

「おい、これはなにが入っていたものなんだ?」

 ゴミ袋に上條課長の視線が縫いつけられているおかげで、いいわけをスラスラ言うことができる。

「以前アロマセラピストを目指して、それなりに勉強していたんだけど、最近やる気がなくなって手をつけなくなったから、もういいやって捨てたものなの」

「なるほど、アロマセラピストか。当然、いろんなことを知っているだろうな……」

 いつもより低い声――まるでなにかを押し殺して我慢しているような上條課長の声を、はじめて聞いた。

 跪いていた足がゆっくりとした所作で立ち上がり、リビングにいる私の顔を見る。冷酷で驕慢な光を宿したまなざしに見つめられるだけで、全身から汗が噴き出したのがわかった。

「そ、そこまでっ、詳しい知識はないよ。ほんのちょっとしか、素人レベルくらいしか知らないというか――」

 ところどころ声がひっくり返る私のセリフを聞いた上條課長は、嫌な笑みを頬に滲ませながらキッチンを出て、一歩ずつ私に近づく。散歩でもするような、のんびりした足取りだった。

「そのほんのちょっとしかない知識で、美羽を流産させたというのか?」

「流産!?」

 そこまでダメージを受けるとは思ってもいなかったせいで、驚きを隠せない。せいぜい気持ち悪くなって、あの場で倒れる程度だと予想していたのに。

「なんて顔をしてる。信じられないと言いたげだな」

「だってそこまで――」

 目の前に立ち竦む大きな壁を前にして、私の体がぶるりと震えた。全身から漂う上條課長からの殺気を直に受けて、逃げることもできず、ただただ見上げることしかできない。

 歪んだ笑いを頬に浮かべた上條課長は、グーパンで私の腹を思いきり殴った。それをモロに食らってその場に跪く。

「ううっ!」

 お腹を押さえて俯くと、今度は背中を容赦なく踏みつけた。何度も何度も。

「百歩譲って、美羽に逢ったことには目をつぶろうと思ったのに、俺と美羽の愛の結晶にまで手をかけるなんて、おまえはやりすぎたんだ」

 お腹を殴られた痛みを抱えつつ、強く踏みつけられる痛みに耐えながら懇願する。

「りょ、良平きゅん、いっ、痛い……ぃ、痛いよ」

「美羽が受けた痛みは、こんなものじゃない。もっと痛かったはずだ!」

 何度痛いと言っても、上條課長の踏みつけはやむことなく、ついには私の横腹を蹴りあげた。
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