憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
「くうぅっ!」
すくいあげるような蹴られた衝撃はかなり強くて、床をゴロゴロ転がる。そんな私を逃がさないようにするためか、頭頂部の髪の毛を掴んで、上半身を無理やり起こされた。
「おまえだけが痛みを感じてるわけじゃない。やってる俺も痛みを感じてるんだ、わかるか?」
涙を滲ませた私の目には、上條課長の顔が歪んで映るせいで、彼も同じく痛みを感じてるようには見えなかった。
「も、やめ……」
髪を掴み、無理やり顔をあげている現状――殴打されたところが痛むことを表情でアピールしながら口を開いた瞬間、大きな手が容赦なくパーンと頬を打つ。
「あまり顔を叩くと、春菜のかわいい顔が腫れあがって、他人にバレるな。おいおい、これくらいで音をあげるなよ。おまえにとって痛みは、極上のご褒美だっただろ?」
「うぅっ、もうやめて……」
「やめてほしければ、俺の言うことを全部きくんだ」
そう言った口が、私の肩に強く噛みついた。
「ひいぃいぃっ! 痛いいたいいたい!」
食いちぎられるような激痛で、気が狂いそうになった。噛みながらなされる荒い息と、容赦なく肌に突き刺さる歯の感触はすざましいものがあった。
殴打される以上の行為に、上條課長の広い背中を両手で思いっきり叩いて止めようとした。両手だけじゃなく足もジタバタ動かして必死に抵抗したら、やっと私の体を解放する。
じんじん痛む肩口に手をやると、ぬるりとしたものを感じたので恐るおそる確認したら、ねっとりとした血がてのひらに付着した。目に飛び込んできた赤を見た途端に声をあげそうになったけど、ぐっと堪える。
ここで悲鳴なんてあげたら、なにをされるかわかったもんじゃない。
血のついたてのひらを握りしめて、見ないようにしてから、目の前にいる上條課長を見上げた。
「まずは仕事を辞めろ。残っている有給を消化するんだ」
人差し指をたてて、仕事の説明をするように話をはじめた優しい上條課長の姿を見つめるだけで、声をあげて泣き出しかける。
「わ、わかった……ううっ」
「ふたつめはその有給を使って、俺のマンションにある美羽の荷物をまとめること」
(そんなの、アンタがやればいいじゃない! なんで愛人の私が、そんなことをしなきゃならないの)
「わかっ」
返事をしようとした刹那、渾身の力を込めた右の正拳突きを胸元に食らって、瞬間的に息が詰まった。
「んうっ!」
「おまえの考えてることはバレバレだ。俺を舐めるな。この人殺しがっ!」
ほかにも罵倒する言葉を吐き捨てられながら、全身に殴る蹴るなどの暴力を一方的に受け続けた。そのうちに文句はおろか、抵抗する気力もなくなり、無様に床に這いつくばった私を見下ろした上條課長は、ふたたび命令する。
「美羽の荷物をまとめ終わったら、この部屋の引越しをするために、おまえの荷物をまとめろ。そして俺のマンションに送れ」
「はい、わかり、ました」
「美羽と離婚したあと、春菜と結婚する。愛人から俺の妻になる気分はどうだ?」
喉の奥で嬉しそうに笑う上條課長に、なにか答えなきゃいけないのに、全身の痛みで思考がうまく回らない。
「おまえが誰も傷つけないように、俺の支配下においてやる。妻のくせに不倫したり、逃げようなんて考えるなよ。実の兄の住所くらい、こっちは知ってるんだからな」
「う、そ?」
肉親の話を上條課長には、ひとことも喋っていなかった。それなのに、いつの間にか調べられたことに驚愕し、見えない首輪をキツく嵌められた気がした。
「逃げた暁には、今までのことをすべてぶちまけてやる。大好きなお兄さんが聞いたら、間違いなく幻滅するだろうなぁ」
こうして私は上條課長と別れることなく入籍し、彼の監視の元で生活を続けた。体中の痛みで、自分の荷物を整理することもままならない状態。毎日息を殺して彼と暮らすことに、ほとほと嫌気がさした。
すくいあげるような蹴られた衝撃はかなり強くて、床をゴロゴロ転がる。そんな私を逃がさないようにするためか、頭頂部の髪の毛を掴んで、上半身を無理やり起こされた。
「おまえだけが痛みを感じてるわけじゃない。やってる俺も痛みを感じてるんだ、わかるか?」
涙を滲ませた私の目には、上條課長の顔が歪んで映るせいで、彼も同じく痛みを感じてるようには見えなかった。
「も、やめ……」
髪を掴み、無理やり顔をあげている現状――殴打されたところが痛むことを表情でアピールしながら口を開いた瞬間、大きな手が容赦なくパーンと頬を打つ。
「あまり顔を叩くと、春菜のかわいい顔が腫れあがって、他人にバレるな。おいおい、これくらいで音をあげるなよ。おまえにとって痛みは、極上のご褒美だっただろ?」
「うぅっ、もうやめて……」
「やめてほしければ、俺の言うことを全部きくんだ」
そう言った口が、私の肩に強く噛みついた。
「ひいぃいぃっ! 痛いいたいいたい!」
食いちぎられるような激痛で、気が狂いそうになった。噛みながらなされる荒い息と、容赦なく肌に突き刺さる歯の感触はすざましいものがあった。
殴打される以上の行為に、上條課長の広い背中を両手で思いっきり叩いて止めようとした。両手だけじゃなく足もジタバタ動かして必死に抵抗したら、やっと私の体を解放する。
じんじん痛む肩口に手をやると、ぬるりとしたものを感じたので恐るおそる確認したら、ねっとりとした血がてのひらに付着した。目に飛び込んできた赤を見た途端に声をあげそうになったけど、ぐっと堪える。
ここで悲鳴なんてあげたら、なにをされるかわかったもんじゃない。
血のついたてのひらを握りしめて、見ないようにしてから、目の前にいる上條課長を見上げた。
「まずは仕事を辞めろ。残っている有給を消化するんだ」
人差し指をたてて、仕事の説明をするように話をはじめた優しい上條課長の姿を見つめるだけで、声をあげて泣き出しかける。
「わ、わかった……ううっ」
「ふたつめはその有給を使って、俺のマンションにある美羽の荷物をまとめること」
(そんなの、アンタがやればいいじゃない! なんで愛人の私が、そんなことをしなきゃならないの)
「わかっ」
返事をしようとした刹那、渾身の力を込めた右の正拳突きを胸元に食らって、瞬間的に息が詰まった。
「んうっ!」
「おまえの考えてることはバレバレだ。俺を舐めるな。この人殺しがっ!」
ほかにも罵倒する言葉を吐き捨てられながら、全身に殴る蹴るなどの暴力を一方的に受け続けた。そのうちに文句はおろか、抵抗する気力もなくなり、無様に床に這いつくばった私を見下ろした上條課長は、ふたたび命令する。
「美羽の荷物をまとめ終わったら、この部屋の引越しをするために、おまえの荷物をまとめろ。そして俺のマンションに送れ」
「はい、わかり、ました」
「美羽と離婚したあと、春菜と結婚する。愛人から俺の妻になる気分はどうだ?」
喉の奥で嬉しそうに笑う上條課長に、なにか答えなきゃいけないのに、全身の痛みで思考がうまく回らない。
「おまえが誰も傷つけないように、俺の支配下においてやる。妻のくせに不倫したり、逃げようなんて考えるなよ。実の兄の住所くらい、こっちは知ってるんだからな」
「う、そ?」
肉親の話を上條課長には、ひとことも喋っていなかった。それなのに、いつの間にか調べられたことに驚愕し、見えない首輪をキツく嵌められた気がした。
「逃げた暁には、今までのことをすべてぶちまけてやる。大好きなお兄さんが聞いたら、間違いなく幻滅するだろうなぁ」
こうして私は上條課長と別れることなく入籍し、彼の監視の元で生活を続けた。体中の痛みで、自分の荷物を整理することもままならない状態。毎日息を殺して彼と暮らすことに、ほとほと嫌気がさした。