憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
「そうですか。今後気をつけます……」

 人の顔色を見ただけで、こうも仕事に使われることになろうとは、夢にも思わなかった。

「そう言うことをあえて言って、副編集長だけじゃなく、俺も白鳥を元気づけようとしているんだけどさ」

「あ、ありがとうございます」

「よくやったな、偉かった!」

 そう言って、いきなり俺の頭を撫でだす。褒められる理由が全然わからなくて、されるがままでいた。最初に貶されたときとは、えらい違いだった。

「白鳥は自分の身を挺して、大好きな幼なじみを守ることができたんだ。もっと胸を張っていい」

 頭をぐちゃぐちゃにされたあと、肩をバシバシ叩かれたのだが、相変わらず一ノ瀬さんの意図が読めない俺は、本当に馬鹿じゃないだろうか。

「なんのことでしょうか?」

「結果はどうあれ、一番最悪の事態から逃れただろ。賞賛に値する働きだと思う」

「一ノ瀬さん……」

「暴力団の手を借りたりしたら報酬を払っても、あとから難癖つけて脅しにかかってくるに決まってる。金が払えなきゃ、幼なじみはソープに売られていたかもしれないんだぞ」

 誰かを貶めたことをネタにゆすって、金をせしめるやり口を具体的に説明されたせいで、背筋に恐ろしい戦慄が走った。

「ちなみに、強くて深い愛情を注ぐ幼なじみを傷つけたお相手は、どんな奴なんだ?」

「ちょっと待ってください。インスタを見せますので」

 美羽姉に一番最初に見せた、寝てる男の前で自慢げに彼氏と一緒にいるアピールの写真を、手早くスマホの画面に映し出した。

「この女なんですけど」

「どれどれ。なるほどねぇ、哀れな姿だな」

 一ノ瀬さんは馬鹿にしたように鼻で笑う。

「哀れって、どこら辺がですか?」

「まったくおまえは本当に、恋愛ごとに疎いんだな。よく聞けよ。誰でもわかる、一ノ瀬講座をひらいてやる!」

 一ノ瀬さんは俺の手からスマホを奪い、机の上に置いてから、あらためて顔を突き合わせた。

「白鳥おまえは、大好きな幼なじみと、ずっこんばっこんヤりました」

「ふぐっ!」

 いきなりのあからさまな表現に、思いっきり吹き出してしまった。しかも一ノ瀬さんの目がマジで、やめてくださいなんて言えない雰囲気が漂っている。

「ほらほら、たくさん想像しろよ。激しく出したり挿れたり、揉みしだいたり、ついでに愛の言葉を囁いたり!」

「いっ一ノ瀬さん、ちょっ、いや……あっ、そんなっ」

 ほかにも卑猥なワードを次々と連呼するせいで、頭の中に美羽姉を抱いてるところが妄想されてしまい、自分の顔がぶわっと赤くなるのがわかった。

『学くん、そんなに強くしたら壊れちゃう……』

 なんてことを言わせたいと思ってしまったのは、絶対に内緒だったりする。

 変にニヤけた顔を見せないように、俯きながら口元を手で覆い隠した俺を見、一ノ瀬さんはさらに言葉を続ける。

「ずっこんばっこんヤったあと、賢者タイムに入りました。おまえならどうする?」

 リポーターのように顔を近づけながら、右手をグーにして俺に向けた感じは、まるでマイクを向けられたような気分だった。

「あぁあっ、えっと、とりあえず彼女を腕の中に抱きしめて寝ます」

 頭の中に沸きあがった卑猥な妄想をなんとか横に退けて、自分がしたいことを即答した。すると目の前にある瞳が嬉しげに細められたのちに、顔が遠ざかっていく。
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