憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
 誰からも愛されることのない、変わり果ててしまった姿に嫌気がさしても、その憎しみからは逃れることができない。しかも私の怨恨に、大切な幼なじみを巻き込む結果になった。

「学くんがあのコと接触する……」

 そう考えたとき、胸の奥がズキッと痛んだ。思わず胸元を押さえるくらいの痛みに、大きく顔を歪ませる。復讐に手を染める後悔よりも、学くんを巻き込んでしまったことの後悔のほうが大きい。あのとき安易にノートを見せなければ、こんなことにはならずに済んだのに。

「……ごめんね、学くん」

 そう呟いた瞬間、スマホが軽やかなメロディを奏でる。室内に響くそれを停めようと手に取ったら、見知った名前が画面に表示されていたので、すぐにタップした。

「もしもし、学くん?」

『美羽姉どうした、元気がないな』

 自分はそんなつもりじゃないのに、第一声の短い会話で心情を悟られてしまうことに、酷く焦りを覚える。やっぱり幼なじみはダテじゃない。

「少しだけ疲れてるのかも。過去を振り返ってまとめるのは、ちょっとね……」

「根を詰めて無理すんなよ。こっちは引っ越し完了したからっていう連絡だけだし」

「ねぇ学くん、今からそっちに行ってもいい? 気晴らしがしたい。住所はラインで教えてもらったところでしょ?」

「この間送信したヤツな。来るのは別にかまわないけど……」

「ご飯の時間には早いね。なにかおやつを持って行ってあげる。食べたいものはない?」

 壁掛け時計を見ながら学くんとの会話を楽しみつつ、まとめた書類をしっかりバックアップ後、パソコンの電源をシャットダウンした。

 引っ越しそばならぬ、お菓子やジュースを手土産に、学くんの新居にお邪魔しようとした矢先に、インターフォンの音が聞こえた。応対したお母さんの楽しげな声が、階下から聞こえてくる。

 その声に導かれるように階段を降りたら、美佐子おばさんが私の顔を見て柔らかくほほ笑んだ。久しぶりに見る元気そうな姿に、私も同じように笑いかける。

「おばさん、こんにちは。学くんが実家から独立して、寂しくなりましたよね?」

「そのことなんだけど、美羽ちゃんに聞きたいことがあるんだよ。ちょっといいかい?」

 柔らかいほほ笑みが、やるせなさそうな笑みに変わった美佐子おばさんと短いやり取りをしたあと、実家を出てコンビニに行き、お菓子とジュースを適当に買って、学くんが住むマンションを目指したのだった。
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