憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
***
まったく眼中にない相手が自分を好きだと知ってしまったゆえに、どんな顔をしていいのか、正直すごく困った。頬の赤みや熱を感じつつ、学くんのお宅にお邪魔する。
「お袋が結構手伝ってくれたおかげでさ、荷物の搬入が早く終わったんだ」
「そう、よかったね……」
「そこの座布団に座って待っててくれ。お茶淹れる」
「おかまいなく――」
いつものやり取りも変に意識しちゃって、言葉数が少なくなってしまう。
キョドりながら指定された真新しい座布団にちょこんと座り、実家であったことをぼんやりと反芻する。
『美羽ちゃん、単刀直入に聞くよ。元旦那さんとその相手に、なにかしようと企ててるね?』
「そ、それは」
『私も美穂も心配してる。そんなことしたって、あとから後悔するだけだよ。もっと別な方法だってあるだろ?』
心配そうな表情で私を見つめる、美佐子おばさんの視線に耐えられなくなり、首を垂れるように深く俯いてしまった。傍らにいるお母さんが、私の肩に手を置く。
『美羽、きちんと答えなきゃダメよ』
「…………」
『その企てに、ウチの学がかかわってるのはわかってる。だからなおさら、心配しているんだけどねぇ。美羽ちゃんを思って、暴走するかもしれないだろ?』
「おばさん、巻き込んでしまってごめんなさい。学くんには手を引くように言いますので、どうか安心してください」
腰から頭を下げて、しっかりお詫びする。本当にもうしわけなくて、これ以外謝る方法が思いつかなかった。
『美羽ちゃん、どうして学が美羽ちゃんの計画に手を貸そうと思ったか、理由がわかるかい?』
「それは彼が私の計画を知って、とても心配したから」
下げっぱなしの頭に、どんどん血がのぼっていく。
『美羽、思い出してみて。学ちゃんは、やつれきった美羽を見て『その不幸ごと、俺がもらってやるから安心しろ』なんて言ってたわよね?』
『あのバカ息子、そんな恥ずかしいことを言ったのかい。語彙力がないって、こういうときに損するんだよ。もっと別な言葉があったろうに。わかりにくいったらありゃしない』
『あらなにを言ってるの? 私は聞いた瞬間、キュンキュンしちゃったわ。学ちゃん自身不器用なところがあるけど、そこを含めてちゃんとした優しさを感じられる言葉じゃない』
恐るおそる頭をあげて、ふたりのやり取りを見つめた。
『美穂はそんなんだから、変な男に騙されるんだよ。今の旦那さんはいいとして、学生時代に付き合った男は――』
『そういう美佐子は片想いを実らせて、やっと付き合ったと思ったら、高望みしすぎて、すぐに別れるを繰り返していたじゃない』
『付き合ってみないと、わからないことだって出てくるさ。ねぇ美羽ちゃん』
いきなり話を振られて、勢いで「そうですね」としか言えなかった。
『美羽、学ちゃんの気持ち、わかってあげてちょうだい』
「お母さん?」
『年下の幼なじみで6コも歳が離れているけど、優しさの中に厳しさのある美佐子の教育のおかげで、しっかりとした大人の男性に育ったなって嬉しく思うの』
胸の前で両手を合わせて、満面の笑みを浮かべるお母さんに、美佐子おばさんがうんと嫌そうな顔をした。
『ちゃっかり私を持ちあげるその性格、美穂は相変わらずだねぇ。このタイミングで、学を持ちあげなくてどうするんだい……』
『顔は美佐子似で、スタイルは旦那さん譲りなんて、本当にいいとこどりした息子さんですこと!』
『本当に私の体形に似なくてよかったと思うわ。あれでチビデブだったりしたら、余計に誰ももらってくれなかっただろうし』
『それでも大丈夫よね、美羽?』
ふたたび話を振られても、なにがなんだかわからなくて、今度は返事ができなかった。
まったく眼中にない相手が自分を好きだと知ってしまったゆえに、どんな顔をしていいのか、正直すごく困った。頬の赤みや熱を感じつつ、学くんのお宅にお邪魔する。
「お袋が結構手伝ってくれたおかげでさ、荷物の搬入が早く終わったんだ」
「そう、よかったね……」
「そこの座布団に座って待っててくれ。お茶淹れる」
「おかまいなく――」
いつものやり取りも変に意識しちゃって、言葉数が少なくなってしまう。
キョドりながら指定された真新しい座布団にちょこんと座り、実家であったことをぼんやりと反芻する。
『美羽ちゃん、単刀直入に聞くよ。元旦那さんとその相手に、なにかしようと企ててるね?』
「そ、それは」
『私も美穂も心配してる。そんなことしたって、あとから後悔するだけだよ。もっと別な方法だってあるだろ?』
心配そうな表情で私を見つめる、美佐子おばさんの視線に耐えられなくなり、首を垂れるように深く俯いてしまった。傍らにいるお母さんが、私の肩に手を置く。
『美羽、きちんと答えなきゃダメよ』
「…………」
『その企てに、ウチの学がかかわってるのはわかってる。だからなおさら、心配しているんだけどねぇ。美羽ちゃんを思って、暴走するかもしれないだろ?』
「おばさん、巻き込んでしまってごめんなさい。学くんには手を引くように言いますので、どうか安心してください」
腰から頭を下げて、しっかりお詫びする。本当にもうしわけなくて、これ以外謝る方法が思いつかなかった。
『美羽ちゃん、どうして学が美羽ちゃんの計画に手を貸そうと思ったか、理由がわかるかい?』
「それは彼が私の計画を知って、とても心配したから」
下げっぱなしの頭に、どんどん血がのぼっていく。
『美羽、思い出してみて。学ちゃんは、やつれきった美羽を見て『その不幸ごと、俺がもらってやるから安心しろ』なんて言ってたわよね?』
『あのバカ息子、そんな恥ずかしいことを言ったのかい。語彙力がないって、こういうときに損するんだよ。もっと別な言葉があったろうに。わかりにくいったらありゃしない』
『あらなにを言ってるの? 私は聞いた瞬間、キュンキュンしちゃったわ。学ちゃん自身不器用なところがあるけど、そこを含めてちゃんとした優しさを感じられる言葉じゃない』
恐るおそる頭をあげて、ふたりのやり取りを見つめた。
『美穂はそんなんだから、変な男に騙されるんだよ。今の旦那さんはいいとして、学生時代に付き合った男は――』
『そういう美佐子は片想いを実らせて、やっと付き合ったと思ったら、高望みしすぎて、すぐに別れるを繰り返していたじゃない』
『付き合ってみないと、わからないことだって出てくるさ。ねぇ美羽ちゃん』
いきなり話を振られて、勢いで「そうですね」としか言えなかった。
『美羽、学ちゃんの気持ち、わかってあげてちょうだい』
「お母さん?」
『年下の幼なじみで6コも歳が離れているけど、優しさの中に厳しさのある美佐子の教育のおかげで、しっかりとした大人の男性に育ったなって嬉しく思うの』
胸の前で両手を合わせて、満面の笑みを浮かべるお母さんに、美佐子おばさんがうんと嫌そうな顔をした。
『ちゃっかり私を持ちあげるその性格、美穂は相変わらずだねぇ。このタイミングで、学を持ちあげなくてどうするんだい……』
『顔は美佐子似で、スタイルは旦那さん譲りなんて、本当にいいとこどりした息子さんですこと!』
『本当に私の体形に似なくてよかったと思うわ。あれでチビデブだったりしたら、余計に誰ももらってくれなかっただろうし』
『それでも大丈夫よね、美羽?』
ふたたび話を振られても、なにがなんだかわからなくて、今度は返事ができなかった。