憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
***
私は手にしたスマホをぶん投げたくなる気持ちを、どうにか堪えた。だってここは自宅じゃない。というか鳥かごになってる自宅にいたくなくて、近所の公園まで足を伸ばしている状況で。
(今なにしてる?)とか、ほかにもウザいくらいにラインを送ってくる良平きゅんのチェックに、ちゃんと仕事しなさいよと会社に文句を言いに行きたくなった。
あれから暴力されることなく、私に手を出すこともない平穏な生活が続いてる。平穏すぎて変化がなくて、ものすごく楽しくない。でも暴力を振るわれないことが、唯一のラッキーだと言える。
だけど人より性欲の強い私としては、いたしてなかったら、当然溜まるものがどんどん溜まってくるから、良平きゅんにかわいくオネダリしても――。
『は? 人殺しに手を出すわけがないだろ。いい加減にしろ!』
なんて、ぞっとするような冷たいまなざしを注ぎながら、ガミガミ怒鳴られる始末。だったらどうして、私と結婚したのやら。ヤりまくるためじゃなかったのかな。
「あ~っ、つまんないつまんないっ!」
「そのかわいい顔、いただき!」
耳に聞こえるシャッター音に驚き、ベンチの上で体を小さくしながら目の前に視線を飛ばしたら、背の高い男性が本格的なカメラを構えて、私をちゃっかり撮影している姿が目に留まった。
「ちょっ、いきなりなんなの?」
雑なナンパだなと思いつつ声を荒げると、男性の顔からカメラが静かに下ろされる。ウェーブのかかった少しだけ長めの赤髪の下にある様相は、思った以上にイケメンで、胸がドキッと高鳴った。
一重まぶたとは思えない大きな瞳が、三日月の形に変わり、私に向かって優しくほほ笑みかける。許されるのなら、持ってるスマホで撮影したいくらい。
「お姉さん、おもしろい顔は、もうしてくれないんですか?」
「おもしろい顔なんて、そんなのしたつもりは――」
そう豪語すると素敵な男性は私に近づき、撮ったものをカメラ本体で見せてくれる。そこにはムッツリ怒った私の顔がバッチリ収められていて、ものすごく恥ずかしくなった。
「ね、おもしろい顔ですよね?」
カラカラ笑いながら隣に腰かける。密着するんじゃなく、きちんとひとり分空けて座る姿が、私の目に好印象として映った。
「お姉さんは主婦なんですね」
「どうしてわかったの?」
「左手の薬指を見れば、誰だってわかると思います」
素敵な男性はカメラの設定をしているらしく、私を見ずに淡々と告げる。
結婚式も挙げず、戸籍だけの婚姻関係の私と良平きゅん。指輪を放り投げて寄こされた経緯があった。
「そういう貴方は、どこの誰なのかな?」
主婦だということを指摘されたくなかった私は、声に苛立ちをのせて彼に訊ねた。
「お姉さんを勝手に撮影してごめんなさい。僕はこういう者です」
私の怒った理由が、勝手に撮影したことだと勘違いした彼は、傍らにカメラを置き、ポケットからなにかを取り出して、両手でそれを渡す。
「フリーカメラマン、白鳥翼……くん」
やけにあっさりした名刺だった。真っ白い台紙に明朝体のフォントでプリントされた名前を呼ぶと、隣で丁寧に頭をさげる。
「はい、ただのしがないカメラマンです」
「さっきの写真、私は変な顔してたけど、周りの景色がしっかり綺麗に撮れてると思ったんだ。さすがはプロだね、すごいよ、尊敬する!」
男性が喜びそうな言葉の『さしすせそ』を、ここぞとばかりに使ってみせる。
「ありがとうございます」
彼がそう言った瞬間に、どこからかメロディが流れた。
「お姉さんとせっかくお知り合いになれたのに、仕事の呼び出しが入ってしまいました」
スマホを手にしながら立ち上がり、残念そうな面持ちで私を見つめる。どんな顔をしてもイケメンなので、本当に目の保養になった。
「残念だね、翼くん」
「また逢うことがあれば、さっきよりも二の腕を細く撮影してあげます」
わざわざカメラを構えた翼くんが、瞳を細めて私を狙った。体型で一番気にしてるところを指摘されて、傷つかない女はいないと思う。
「私、主婦で暇してるから、いつでも逢えるよ!」
次に翼くんと逢うときは、二の腕を隠した服を着なきゃと思ったため、自分から誘いをかける。もちろん胸元が大きく開いたものを着て、Gカップを強調するのを忘れない。
「そうなんですか」
「翼くんさえよければ、ラインの交換しない? もちろん友達としてだけどね!」
友達を誇張したおかげか、イケメンの翼くんと連絡先をすんなり交換することができた。こうして日々退屈していた日常に、ほんの少しだけ色がついたのだった。
私は手にしたスマホをぶん投げたくなる気持ちを、どうにか堪えた。だってここは自宅じゃない。というか鳥かごになってる自宅にいたくなくて、近所の公園まで足を伸ばしている状況で。
(今なにしてる?)とか、ほかにもウザいくらいにラインを送ってくる良平きゅんのチェックに、ちゃんと仕事しなさいよと会社に文句を言いに行きたくなった。
あれから暴力されることなく、私に手を出すこともない平穏な生活が続いてる。平穏すぎて変化がなくて、ものすごく楽しくない。でも暴力を振るわれないことが、唯一のラッキーだと言える。
だけど人より性欲の強い私としては、いたしてなかったら、当然溜まるものがどんどん溜まってくるから、良平きゅんにかわいくオネダリしても――。
『は? 人殺しに手を出すわけがないだろ。いい加減にしろ!』
なんて、ぞっとするような冷たいまなざしを注ぎながら、ガミガミ怒鳴られる始末。だったらどうして、私と結婚したのやら。ヤりまくるためじゃなかったのかな。
「あ~っ、つまんないつまんないっ!」
「そのかわいい顔、いただき!」
耳に聞こえるシャッター音に驚き、ベンチの上で体を小さくしながら目の前に視線を飛ばしたら、背の高い男性が本格的なカメラを構えて、私をちゃっかり撮影している姿が目に留まった。
「ちょっ、いきなりなんなの?」
雑なナンパだなと思いつつ声を荒げると、男性の顔からカメラが静かに下ろされる。ウェーブのかかった少しだけ長めの赤髪の下にある様相は、思った以上にイケメンで、胸がドキッと高鳴った。
一重まぶたとは思えない大きな瞳が、三日月の形に変わり、私に向かって優しくほほ笑みかける。許されるのなら、持ってるスマホで撮影したいくらい。
「お姉さん、おもしろい顔は、もうしてくれないんですか?」
「おもしろい顔なんて、そんなのしたつもりは――」
そう豪語すると素敵な男性は私に近づき、撮ったものをカメラ本体で見せてくれる。そこにはムッツリ怒った私の顔がバッチリ収められていて、ものすごく恥ずかしくなった。
「ね、おもしろい顔ですよね?」
カラカラ笑いながら隣に腰かける。密着するんじゃなく、きちんとひとり分空けて座る姿が、私の目に好印象として映った。
「お姉さんは主婦なんですね」
「どうしてわかったの?」
「左手の薬指を見れば、誰だってわかると思います」
素敵な男性はカメラの設定をしているらしく、私を見ずに淡々と告げる。
結婚式も挙げず、戸籍だけの婚姻関係の私と良平きゅん。指輪を放り投げて寄こされた経緯があった。
「そういう貴方は、どこの誰なのかな?」
主婦だということを指摘されたくなかった私は、声に苛立ちをのせて彼に訊ねた。
「お姉さんを勝手に撮影してごめんなさい。僕はこういう者です」
私の怒った理由が、勝手に撮影したことだと勘違いした彼は、傍らにカメラを置き、ポケットからなにかを取り出して、両手でそれを渡す。
「フリーカメラマン、白鳥翼……くん」
やけにあっさりした名刺だった。真っ白い台紙に明朝体のフォントでプリントされた名前を呼ぶと、隣で丁寧に頭をさげる。
「はい、ただのしがないカメラマンです」
「さっきの写真、私は変な顔してたけど、周りの景色がしっかり綺麗に撮れてると思ったんだ。さすがはプロだね、すごいよ、尊敬する!」
男性が喜びそうな言葉の『さしすせそ』を、ここぞとばかりに使ってみせる。
「ありがとうございます」
彼がそう言った瞬間に、どこからかメロディが流れた。
「お姉さんとせっかくお知り合いになれたのに、仕事の呼び出しが入ってしまいました」
スマホを手にしながら立ち上がり、残念そうな面持ちで私を見つめる。どんな顔をしてもイケメンなので、本当に目の保養になった。
「残念だね、翼くん」
「また逢うことがあれば、さっきよりも二の腕を細く撮影してあげます」
わざわざカメラを構えた翼くんが、瞳を細めて私を狙った。体型で一番気にしてるところを指摘されて、傷つかない女はいないと思う。
「私、主婦で暇してるから、いつでも逢えるよ!」
次に翼くんと逢うときは、二の腕を隠した服を着なきゃと思ったため、自分から誘いをかける。もちろん胸元が大きく開いたものを着て、Gカップを強調するのを忘れない。
「そうなんですか」
「翼くんさえよければ、ラインの交換しない? もちろん友達としてだけどね!」
友達を誇張したおかげか、イケメンの翼くんと連絡先をすんなり交換することができた。こうして日々退屈していた日常に、ほんの少しだけ色がついたのだった。