憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
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 翼くんが渡してくれた名刺は、名前と一緒にTwitterのIDがプリントされていたので、サクサク検索してみたら、すぐに見つけることができた。アイコンが愛用してるカメラになっていて、翼くんらしい感じだった。

「すご〜い! 翼くんってば、ちょっと前に話題になった、芸能人のスキャンダルを撮影してたの!? そんな人に声をかけられた春菜って、すごいんじゃない!」

(すかさずフォローして、これから彼のお仕事を逐一チェックしなきゃ! ラインのやり取りにそれを使って、彼のことを盛り上げないとね♡)

 残念なのは春菜がフォローしても、翼くんはしてくれないのがすぐにわかった。彼がフォローしてるのは、取引先の会社だけ。それでもよかった。翼くんに逢えなくても、活動を見守ることができるから。

 心を躍らせながらスマホを操作していると、彼がさっきアップしたばかりのツイートが目に留まる。それは翼くんと一緒にいた、公園の花壇の写真だった。

 同じ種類の花がたくさん咲いてるのに、ひとつだけ花がないものをクローズアップして撮影した翼くん。『どうして一輪ないのかな。かわいそうに』というコメントがつけられていた。

「きゃ〜、ちょっと待って。めちゃくちゃ運命感じるんですけど♡」

 公園内の花壇はたくさんあるし、いろんな花が咲いてるのに、私が引きちぎったその花を、翼くんがわざわざ見つけてくれたことに、なんとも言えない運命を感じた。

(私が手折ったその花はね、同じものの中でも、ちょびっとだけ色が違って悪目立ちしていたから、首をはねたんだよ)

「くふふっ、そんなこと教えるワケ――」

「……春菜、なにがそんなにおかしいんだ?」

 目の前を覆った大きな影の原因と同時に、声の張本人がわかり、思いきりひゅっと空気を飲み込んだ。

「りっ、良平きゅん、おかえりなさい……」

 ソファに座ってる私を見下ろすその顔が、あからさまに怒ってることで、機嫌がすこぶる悪いことが嫌でもわかる。

「なにがおもしろくて、さっき笑っていたんだ?」

「と、友達がTwitterにアップしたものが、笑える内容だったから……」

 背中に、じっとりとした汗が滲む。私が返事をしたというのに、良平きゅんは黙り込んだまま、ひたすら私の顔を見下ろす。その時間の長いこと。リビングの時計の秒針が、やけに耳について離れない。

 恐るおそる手にしたスマホを、テーブルの上に置いた。

「……良平きゅん、会社でなにかあったの?」

 どうにも静寂に耐えられそうになかったので、思いきって訊ねたら、良平きゅんは持っていた鞄をその場に放り投げ、私の首を掴みながらソファに押し倒した。

「キャッ!」

 かわいく小さな悲鳴をあげて、良平きゅんの気持ちを煽る。粘り気のあるまなざしを注がれることで、私を欲しがってるのがわかり、やっと手を出してくれることに喜びを見いだした。

「あぁん、良平きゅん、きて……」

 甘えた声で誘いつつ、両腕を良平きゅんの首にかけたら、目を見開いてあからさまにハッとした顔になった。そして声にならない声で短いなにかをつぶやき、手荒に私の両腕を外す。

 その短い言葉がなんなのかを理解して苛立った私をそのまま放置し、良平きゅんは寝室に引きこもってしまった。

(なんでいつまで経っても、自分から捨てた美羽先輩を想ってるんだろ。バカじゃない!)

 なぜか良平きゅんは、次の日も仕事に行かず在宅した。理由を聞きたかったけど、機嫌が悪いせいで訊ねることすらできずに、この日は家の中に微妙な空気が、ずっと漂ったのだった。
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