憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
***
気合を入れて、指定された時間に通い慣れた会社へ赴く。受付で名前を告げると、少ししてからお世話になった工藤部長が、大きなお腹を揺らしながら走って現れた。
「久しぶりだね、体調はどうなんだい?」
息を切らして私の顔色を窺う工藤部長に、ニッコリ笑ってみせる。
「お久しぶりです。体調はそれなりにという感じでしょうか……」
学くんの言いつけどおり、規則正しい生活と食生活を心がけたおかげか、以前よりも体調がいいのは事実だった。しかしながらメンタル面はあまり良くなく、相変わらず不安定な状態が続いていたので、言葉を濁す結果になってしまった。
「応接室で話をしたいと思ったんだけど、誰にも聞かれたくないのもあってね。こっちに来てくれるかい」
「わかりました」
「ちなみに今日は上條課長はお休みで、顔を逢わせることは絶対にないから、どうか安心してほしい」
「ありがとうございます」
工藤部長の配慮に感謝しつつ、世間話をまじえながら案内されたところは地下で、工藤部長が持っている鍵でいちいち扉を開閉して、奥へと進んでいく。そこは私が働いてるときには、一度も足を踏み入れたことのない知らない場所だった。
「この地下は昔の資料や、使わなくなったものを保管するところなんだ。ここの鍵を持ってるのが、僕みたいな役職やってる一部の人間だけ。すぐに人事部のヤツも駆けつける、さぁ入って」
工藤部長が奥から二番目の扉を開けて、電気をつけながら誘導してくれたので、恐るおそる中に入った。窓のない室内には、長机とパイプ椅子が六脚があるだけで、ほかにはなにもない。
「人事部のヤツがまだ来てないけど、ちょっと話を聞きたくて」
扉を開け放ったままパイプ椅子に腰かけた工藤部長を見ながら、目の前の椅子に同じように腰かける。
「なんでしょうか?」
これから誰かと話をする際は、ボイスレコーダーを使うことを学くんから言われていたので、すぐさまポケットに手を入れて、録音ボタンを押した。
「涙ながらに僕に語った上條課長からの話では、離婚した原因は君の流産にあるって。ほら、悪阻で体調悪くて、実家に帰っていたんだよね?」
離婚した原因を作った良平さんが、泣くという演技つきで工藤部長に説明したことを知り、心の中で嘲笑う。
「間違いありません」
「君が自宅に不在の間、上條課長は生まれてくる子どものために頑張りたいからと、みずから出張を申し出ていたんだけど」
「そうなんですね……」
工藤部長の手前、表面上は真顔を貫いたけれど、内心にいる私は中指をたてながら舌打ちした。生まれてくる子どものためと言っておきながら、影では浮気していたことに、苛立たない妻はいないと思う。
「その仕事を優先したせいで、君をないがしろにしてしまい、その結果流産させてしまったと聞いているんだが、これは事実なんだろうか?」
「工藤部長は、疑問に思うことがあるんですか?」
不器用な彼が泣いて説明しても、どうせ大根役者で終わっているだろうから、上司にそれがバレたんだと思った。
「疑問というか君と別れてからすぐに、派遣社員だった長谷川春菜さんと再婚しているじゃないか。扶養の手続きで、あれって思ったんだ」
「浮気の末に結婚しても、生活していく上で会社に書類を提出しなきゃいけないというのに、下手な嘘ばかりつくから、あの人……」
私の言葉を聞いた工藤部長の顔に、やっぱりという感じが滲み出た。
「ということは流産の原因は、このふたりにあるんだね?」
「間違いありません」
キッパリと言いきった。以前の私なら自分の非を常に抱えた状態だったから、こういうふうに告げることができなかったと思う。だけど学くんがあのコと接触してからは、そういう感情を捨てることにした。
揺らぐことなくまっすぐに、目標達成を目指そうって。
気合を入れて、指定された時間に通い慣れた会社へ赴く。受付で名前を告げると、少ししてからお世話になった工藤部長が、大きなお腹を揺らしながら走って現れた。
「久しぶりだね、体調はどうなんだい?」
息を切らして私の顔色を窺う工藤部長に、ニッコリ笑ってみせる。
「お久しぶりです。体調はそれなりにという感じでしょうか……」
学くんの言いつけどおり、規則正しい生活と食生活を心がけたおかげか、以前よりも体調がいいのは事実だった。しかしながらメンタル面はあまり良くなく、相変わらず不安定な状態が続いていたので、言葉を濁す結果になってしまった。
「応接室で話をしたいと思ったんだけど、誰にも聞かれたくないのもあってね。こっちに来てくれるかい」
「わかりました」
「ちなみに今日は上條課長はお休みで、顔を逢わせることは絶対にないから、どうか安心してほしい」
「ありがとうございます」
工藤部長の配慮に感謝しつつ、世間話をまじえながら案内されたところは地下で、工藤部長が持っている鍵でいちいち扉を開閉して、奥へと進んでいく。そこは私が働いてるときには、一度も足を踏み入れたことのない知らない場所だった。
「この地下は昔の資料や、使わなくなったものを保管するところなんだ。ここの鍵を持ってるのが、僕みたいな役職やってる一部の人間だけ。すぐに人事部のヤツも駆けつける、さぁ入って」
工藤部長が奥から二番目の扉を開けて、電気をつけながら誘導してくれたので、恐るおそる中に入った。窓のない室内には、長机とパイプ椅子が六脚があるだけで、ほかにはなにもない。
「人事部のヤツがまだ来てないけど、ちょっと話を聞きたくて」
扉を開け放ったままパイプ椅子に腰かけた工藤部長を見ながら、目の前の椅子に同じように腰かける。
「なんでしょうか?」
これから誰かと話をする際は、ボイスレコーダーを使うことを学くんから言われていたので、すぐさまポケットに手を入れて、録音ボタンを押した。
「涙ながらに僕に語った上條課長からの話では、離婚した原因は君の流産にあるって。ほら、悪阻で体調悪くて、実家に帰っていたんだよね?」
離婚した原因を作った良平さんが、泣くという演技つきで工藤部長に説明したことを知り、心の中で嘲笑う。
「間違いありません」
「君が自宅に不在の間、上條課長は生まれてくる子どものために頑張りたいからと、みずから出張を申し出ていたんだけど」
「そうなんですね……」
工藤部長の手前、表面上は真顔を貫いたけれど、内心にいる私は中指をたてながら舌打ちした。生まれてくる子どものためと言っておきながら、影では浮気していたことに、苛立たない妻はいないと思う。
「その仕事を優先したせいで、君をないがしろにしてしまい、その結果流産させてしまったと聞いているんだが、これは事実なんだろうか?」
「工藤部長は、疑問に思うことがあるんですか?」
不器用な彼が泣いて説明しても、どうせ大根役者で終わっているだろうから、上司にそれがバレたんだと思った。
「疑問というか君と別れてからすぐに、派遣社員だった長谷川春菜さんと再婚しているじゃないか。扶養の手続きで、あれって思ったんだ」
「浮気の末に結婚しても、生活していく上で会社に書類を提出しなきゃいけないというのに、下手な嘘ばかりつくから、あの人……」
私の言葉を聞いた工藤部長の顔に、やっぱりという感じが滲み出た。
「ということは流産の原因は、このふたりにあるんだね?」
「間違いありません」
キッパリと言いきった。以前の私なら自分の非を常に抱えた状態だったから、こういうふうに告げることができなかったと思う。だけど学くんがあのコと接触してからは、そういう感情を捨てることにした。
揺らぐことなくまっすぐに、目標達成を目指そうって。